ホンダと日産、経営統合が破談 両社が取締役会で決議…… どっちも困難な状況だろうに……吉と出るか凶と出るか。

日本経済新聞社の記事である。


正直な話、この2社はどちらも先の見通しが微妙なところにある。

本田技研工業(以下ホンダ)は、中国事業の不振もあって成長見通しは下方修正されたままであるし、電動化において単独で続けるのは財務状況を見る限り得策ではない。さらに、Nシリーズで知られる軽自動車事業も、一応国内でもっとも売れている好調な事業ではあるが、OEMによる他社供給をしていないこともあり、開発コストなどを考えると、このままだと撤退も有り得ることはずっと以前から囁かれている。

一方で、日産は直近の事業がどう考えても不調であり、フリーキャッシュフロー(FCF)が通期でマイナス推移している。元々日産はルノーとの経営統合に向かって動いてきた経緯があり、車台をルノーと共通化する中で、ルノーと日産は車種の選別を進めてきたことが影響している。実際は、日産側の車種が徐々に減り、ルノー側はある程度維持しつつ日産の車両を組み入れていたという現実があるのだが……それにまんまの乗ってきたことで、日産はいくつかの個性的な車種を失ってしまった。今は売る物がないなどと言われるが、実際には売れ筋に特化したことで、その売れ筋が売れなくなった時に、モデルチェンジで売れる車種を継続して出す力が弱まったというだけのことである。

以前なら、数十の車種のうち何車種かを数年サイクルで入れ替えればどれかが当たっていたが……それが無くなったのだ。
そして、残念なことにルノー側は日産との関係こそAllianceを維持して残しているし、親会社として株式を保有しているものの、日産の財務状況悪化から、切り離しを検討していることも分かっている。このままルノーより大きな日産株を保有し続けると、ルノーも共倒れになりかねないからである。そこで、出てきたのが鴻海から一部株式の売却を打診されたとかそんなところのようだ。

ただ、鴻海も今の日産を買収するほどの体力はない。何せ、1年で数千億円のキャッシュが消えていくのだから、買収したら鴻海も潰れかねない。鴻海はEMS企業なので、売上げは大きいが利益率が凄い訳ではないからだ。鴻海がやりたいのは、日産のブランドを借りて、事業を開始したいというところだろう。

もっとも、ルノーも苦しみがある。それは何かというと、ルノーと日産はAllianceで繋がりがあるため、ルノーに日産の車両を供給している面があり、その影響でもし完全に切り離したりすると……影響が甚大になるからである。そもそも、この状況に陥らせたのは、日産が悪いと言うよりは、23年までルノー側の経営陣が議決権を手放さなかったという点もあるだろう。その頃には、既に日産の経営は傾きはじめており、その状況になってから、ルノーが慌てて手を放そうし始めた訳で、そこから日産の経営陣が動き出しても、20年で失ったものを戻すことは出来ない。

ここに日産の苦悩があるわけだ。ここまでを理解した上で……


ここで話をもう一度ホンダに戻すと、ホンダが日産と組むことを考えたのは、経産省などから求められたという側面もあったのかもしれないし、日産やルノー側からも打診があり、ホンダも検討に値するとみたからだろう。ホンダが日産と組めば、ルノーとのAllianceも活かせる可能性があり、欧州、アジア、北米のカバーが可能になる。これが、今より1年前に出ていたならきっとホンダ日産か日産ホンダのHN、NHホールディングス辺りになっていた可能性が高い。要は、共同持ち株の親会社を作り、その下に日産とホンダが入るという統治体制である。

報道ではメリットが少ないという話が多かったが、シナジーが今の段階であるかどうかは別として、事業のデメリットは少なかった。要は、事業の性質がこの2社は異なるので、客層が被りにくいというメリットがあったから、出来ないことは無かったし、この多様性が同じ事業グループに2つ以上あると、それが上手く繋がった時に爆発的な発展を遂げることがしばしばあり、何より物価が上がる中で部品調達における量産効果(大量に納入すれば輸送費やユニットコストが下がり価格が下がること)があり、それを期待したのだと思われる。


では、何が駄目だったかというと、多分、現状の日産の財務状況がホンダが予想していた以上に悪かったからだろう。一方で、日産側がホンダの子会社化提案を突っぱねたのは、日産がルノーと対等の議決権になったのが、23年7月であり、そこから考えると、まだ2年も経過していないからだ。SNSなどでは日産がボロボロに叩かれていたりするが、日産にも日産の言い分がある訳だ。それを、仕方ないねといえるかどうかは、人それぞれだが……

社員なら社員としてどう思うか、投資しているなら投資家次第、車の所有者で心配しているなら所有者がそれらを加味した上でどう感じるかだけである。第三者は部外者なので何を言おうが会社には影響しない。上記を読んで分かる様にちゃんと経緯などから判断し、下手に感情や世間の雰囲気だけで考えないことが本質を知る上で大事であるというだけだ。(これ以外にも日産が突っぱねた理由はいくつかあると思われる)

閑話休題、そこで再びホンダの子会社になるなど、折角議決経営権をとり戻したのに……元の木阿弥処じゃ無く劣化じゃないか……という話になる。これが分かっていると、ホンダが子会社にするという提案を日産が受け入れる事はまずないことが分かる。


で、ここからどうなるかだが、日産が破綻するとかそういうことは今すぐの時点では無いだろう。ルノーとの関係も残っているし、OEMでの製造開発(ルノーだとメガーヌなど)がかなりあるため、実はお互い切るに切れない関係にある。フランス政府もこれには頭が痛いだろう。即ち、一蓮托生とまでは言わないが、欧州ではPSAやVWが業績不振に喘いでいるのと同じように、ルノーも日産次第で厳しくなることを示している。だから、潰せないのである。関係が続く間は……。だからといって口出しも容易に出来ない。ゴーンの最後があれだっただけに、下手なことは出来ないのだ。

ホンダについては、また潜在的な難しさがある。これが継続する可能性が否定できず、今は突っぱねたがこの先が本当に良いかどうかは、難しいところにある。直近の業績は中国の事業不振が響いており、成長率は下方修正されている。

これが何故厳しいのかというと、実はホンダのアジア市場での販売台数の半分以上が中国だからである。この最近だと、日本よりも実は中国販売は多かった。しかし、今ホンダは日産よりも、販売下落率が高いのである。これが何をもたらすかというと、単純に価格競争力において、劣勢に立たされる恐れがある。もしも、中国市場から撤退をという流れになると、欧州も弱いなかで、日本と北米のみに集中することになり、かなりコスト管理が難しくなると同時に、政治的な影響、トランプ関税などの影響も露骨に受けやすくなる恐れがある。

一方で、日産と三菱、ルノーの3社ならある程度OEMなどを使う事で、売れ筋と部材調達の補完をすることが出来るというメリットが働く。まあ、今は欧州市場も自動車産業は厳しいので、もしも北米が傾くようなことになれば……どの会社も相当なピンチになるだが……それを加味しても、グループとしての連合を組んでいる企業は、相互扶助効果があり、ある程度の相互関係によって結果的に助かることも結構ある。事業の相互補完や相互に重なっている部分をさらに地域や分野ごとに集約することが出来れば、この手のグループは生き残りが出来ることも結構あるのだ。今の日産が、ルノーと上手く出来るかはしらないので出来ないかも知れないが、出来れば、生き残れるだろう。

ホンダは、それを全て一社で行う分、強みも弱みも個性も1つ(の会社としての決定)しかない。だから、荒波が来るときっと厳しくなるというわけだ。だから、厳しいという訳だ。


まあ、くっつかなくて良かったのかは、3年~5年もすれば分かるだろう。逆にくっついた方が良かったとしたら、それがどちらにとってなのかも、その頃には分かるだろう。結局両方にとって最適な時期が今を除いてなかった、となっていることも有り得ることだ。

個人的には、ホールディングスでの合併は1年掛けてでも検討を続けて、するかしないか結論を出した方が良かったと思うが……。そも、ホンダの子会社に日産をというのは、日産とルノーとのこれまでの経緯を考えると無理なのは明らかだったし。それを読み解けない辺りが、ホンダの経営陣も個性が強いのかもしれない。

それがホンダが今まで単独で業績を成長安定させ続けた強みだが、ハズレがもしも始まると弱みに一転する可能性があることを、経営陣もそうだが、ホンダに投資している人も多少気に留めておいた方がよいかもしれない。トランプ大統領の影響もあって、これからいろいろ今まで通りで通用しない側面は増えるだろうし……。

結果的に双方にとってこの決断が良かったと言える状況になってほしいものだ。いや、日産なんて後で後悔しろなんて人も結構いるようだけど、日産自動車系列で働く従業員は国内外で10万人規模いて、連結などに関連しない下請けも含めると膨大になる。破綻したら必ず日本には不景気が来るのだから、日産もホンダもこの決断を後悔するような結果にしてはいけないのである。