「なぜ売却したいのか」 USスチール買収で―トランプ次期米大統領…… 日本も報道を精査した方がよい。
時事通信社の記事である。
時事はあまりこれに関するコラムを書かずに事実しか伝えないから良いのだが、コラムとか書いている新聞社などは、もう一度、時系列で精査した方がよいだろう。
US Steelの買収に関わる問題で、日本の報道は米国が悪いという扱いになるように伝えているが、現実問題として言えばもう買収するのは困難どころか、日鉄とUS Steelのメリットを既に相殺しはじめていると見た方がよい。それでも、戦うというのは単純に違約金の問題があるからと考えるべきだが、だったら違約金を何とかするための訴訟をすべきである。
本来は、それでUS Steelと法的に争うべきである。US Steel側がこうなることを見越して、日鉄を選んだのではないかとすれば、違約金は無効に出来る可能性もあるからだ。
一応、このUS Steelの買収に関する話を明確にしていくと、元々US Steelの買収を計画していたのは日鉄ではなく、Cleveland-Cliffs(クリーブアンド・クリフス)であった。これは、米国3位の鉄鋼メーカーである。これは総額100億ドルでの取引で、全米鉄鋼労働組合はそれを支持したがUS Steelの経営陣は拒否した。これをちゃんと日本で報道しているかどうかが、日本人がこの問題に対しての先の理解を持っているかどうかを決める鍵かもしれない。
その後、この買収提案を懸念したUS Steel側は日鉄との交渉をはじめて、149億ドルで交渉が成立した。その結果、全米鉄鋼労働組合とUS Steelの労働組合が、日鉄の買収に対して否定的な見解を示すようになった訳だ。それが、大統領選挙や政治活動にまで波及することになった。
これが、拗れた原因だ。日鉄とUS Steelが始まりなら多分合意できていたが、切っ掛けは米鉄鋼業界の再編買収の提案だったのだ。
多分だが、何か理由があって、US Steelは日鉄に買収されたかったのだろう。だから、この日鉄買収の契約時にUS Steelは必ず買収することを日鉄との契約に合意させたるための縛りを入れたと考えられる。日鉄側からこれを破棄する場合は、違約金を払うとでも契約を交わしたのだろう。本来なら、この話をちゃんと日本で日本の報道機関が報道していれば、日鉄が正しいとか、米国のUS Steelを守るホワイトナイトだとかいう話にはならないわけだ。
私が思う恐ろしい点は、何故こんなに拗れているのに、US Steelも日鉄も必死なのかの方である。これを見て思うのは、東芝が買収したWEC(Westinghouse Electric Company)の時のように何か後から問題が吹き出してこないかが心配である。どうしても、買収したがる日鉄の社長の考え方もそうだが、日本ではこのCleveland-Cliffs(以下CC)が先に買収提案をしていた事実すら知らずに、何故か日本はUS Steelのホワイトナイトですと扱っていることも含めて、異常なのだ。
話を戻そう。切っ掛けの話が見えてくると米国政府が何故買収に否定的なのかも分かるはずだ。
元々、日本向けに見ると前条件のCCの話が知られていないので、日鉄とUS Steelの合意は本当に潰れないためのホワイトナイトに見えるからだ。Win-Winなのに何故って話で終わるのである。ただ、US Steelの投資家はともかく、海外の日鉄への投資家が果たして買収を良しとしているかは分からない。日本の投資家はアンポンタンだろうから、CCの話も知らなくてもおかしくない投資家も多いだろうしね。
一方で米国で労働者のスタンスで見た時、労働者側や鉄鋼業界は何故CCの買収を蹴ったあとに、よりによって日鉄なのか?という話へと変わっていく。そりゃそうだ、米国内での再編のはずが、よりによって外資により高く身売りするという契約を労働者団体や業界も知らぬ間に後から発表されたのだ。それが選挙の年だったこともあって、それが、そのまま燃え上がったことで、大統領も拒否することになった。
これは、端的に言えば、クシュタールがセブンアイホールディングスに買収提案を出したあとに、創業家がという話があったが、それとは真逆で、セブンアイホールディングスを創業家……いやイズミ(広島の流通小売り大手)辺りが買収提案したあとに、もしもそれを蹴ってクシュタールの買収提案を呑んだなら、それを日本の国民や労働者団体は簡単に受け入れるのかというのと似ている。セブンアイぐらいならOKと思う人もいるかもしれないが……。労働者団体がある程度強い老舗企業だとそう簡単にはいかないだろうし、いやいやと思う人は多いはずだ。
尚、これが分かると実は日鉄とUS Steelが強く述べているいくつかの話が、前提として崩れる。それは、会社が潰れるかも知れないとか、そういう話だ。そもそも、CC側のCEO自体がバイデン氏に圧力を掛けたのではないかという記事が以下にもあるぐらいには今も米国内での買収再編をしたいのだろう。多分、100億ドルで再びかは分からないが、CCは日鉄が断念すれば買収するつもりがあるか、すぐに無理なら弱らせてから喰いたいのだろう。
そういう実態が分かってくると……イメージが大きく変わるはずだ。
日本の報道機関はもう一度、この買収合意の前後を含めて、日鉄とUS Steelの関係性やUS Steelと労働者団体がどう動いているのか、米政府が何故そう動いているのかをよく見た方がよいと私は思っている。はっきり言って、ここまでして日鉄がUS Steelを買収するメリットなど1つもないと私は思っている。日鉄にとって問題があるとしたら、買収を絶対に完了しないと違約金という契約に縛られていることの方だろう。本来なら、こんな契約を結ぶことになった時点で、日鉄はUS Steelがおかしいと考えた方がよかったという話を報道してもよいぐらいだ。日鉄が買収をより確実に進めるために訴訟する。それが正義のように伝えてはいけない。
この国でもっとも問題なのは、時系列の経緯が上手く伝えないから、こんがらがった本質にたどり着けないことだろう。
こんがらがった理由は、経営陣と鉄鋼労働者団体の乖離が起きたことだ。その乖離状態のままで、猶予期間も殆どなく日鉄と交渉したUS Steelがある種の毒饅頭(どくまんじゅう)である。この訴訟を長く続けて勝っても負けても、日鉄はその訴訟が終わるまで停滞することになるだろう。そうやっている間に、世界の鉄鋼産業は変わっていく可能性も十分にある。そうなれば、Cleveland-Cliffsや他の鉄鋼業の企業などにとっては喜ばしい結果になり、一方で、日鉄はUS Steelとくっつけるかどうかが分かるまで動けないことで、足を引っ張られることになる。
今訴訟をするなら相手は、米政府じゃなく、違約金絡みで縛りがあるなら正しい相手はUS Steelとの契約に纏わる部分での訴訟なのだと私は思っている。下手すればこうなることをUS Steelの経営陣は予見して動いた可能性もゼロではないのではという話に飛躍させても良い。
その決断に日鉄は方向性を変えた方が、企業の成長という観点で見るなら良い選択になるだろう。まあ、民主主義だ自由経済がというのが大事なら、知らんけど……。
そうすると、下手すれば、鉄鋼業界のEpic Gamesになったりも……いや、それもないな。そもそもそれを達成するにも、次の大統領ぐらいは納得させられないと駄目だし、今回、買収の経緯と買収の理由が最初の再編の始まりになるはずだったCCの提案に対して、イマイチなのだ。
一企業の買収の話で、且つ再編の切っ掛けが日鉄じゃないのに何故こんなに拗れるような報道が起きているのかは、本当に訳が分からなない。しかも、買収する側の国の中で、米政府への訴訟を素晴らしいと褒める人までいる辺り、一方的に強く思い込みに嵌まっており、狂ってるとしか思えない。要は、良い話ばかりに乗せられて本質が意図的にそらされているように見える。
しかし、これはこうなる理由があったのだ。しかも、その原因はどう考えてもUS Steelの経営陣にある。日鉄の買収確約(違約金)を取り付けているくせに、労働者の説得に失敗し、国内の鉄鋼団体にまで非難されている。さらに、政府にまでNoと言われた。そこで訴訟だ。この手の訴訟は下手すれば2年3年とは言わない単位で長引くだろうし、長くなれば金もかかることになる。
結局、US Steelは買っても買えなくてももう「毒饅頭」だろう。そのまま通れば、美味しいかどうかは知らんが、饅頭だったかもしれないが、今の状況だと無理して買うほどのものとも思えないのに、まだ価値があるかのように扱っているところがあることがある種怖い。ある程度の大きさや基幹産業扱いの事業買収などの場合、成功しないことは、米国相手に限らず結構あるのだ。フランスとかだと、そもそも外資規制が厳しいし……。
日本もLINE絡みでNEVERとの資本関係見直しの要請をしたし、ただそれが大きく世論にまで誰が悪いとか言い出す場合は、たいていの場合、毒饅頭を当事者の企業や団体が咥えているときである。その毒を上手く見つけ出さないと、結果的にその会社や団体は業績を落とし始めるだろう。