Intel Ponte Vecchio GPU(Intel Datacenter GPU MAX) 系の開発は終焉、Falcon Shoresの開発に注力…… 業績好転を狙った転換かな?
VideoCardz.comとwccftech.comの記事である。
Ponte Vecchioは米Intelがアルゴンヌ国立研究所向けに供給したExascale Computer(スーパーコンピュータ)であるAuroraのGPGPUとして開発された物である。使われているGPUはクライアント向けのXe Graphics(Alchemist)をベースにしており、より大型で大量のシェーダーユニットと大規模インターコネクトを統合したHPC(high-performance Computing/GPGPU)製品がPonte Vecchioという開発名になった訳だ。
まあ、AuroraはHPCとしての性能面の最適化でまだ苦戦していて、やっとExaに乗り出したところである。まだ、目標の完成度に達していないのだ。
で、今回開発が終わったというのは、この直近の後継になるはずだったRialto Bridgeという開発名のGPGPUが昨年キャンセルされ、そのあとの計画が生まれること無く中止が決まったということらしい。だから、x86とGPGPUという組み合わせのHPC開発は一旦終焉となる。Ponte(GPU MAX)の製造や販売がもう終わるという話じゃなく、これらの販売は今後も継続される。サポートも続くので導入検討や導入したばかりの企業が困る事はない。
開発について、これからはFalcon Shoresに注力し、Gaudiや次期Xeを統合した製品群の開発に精力を注いでいくようだ。
これはあくまで個人的な見解だが、後れや規模縮小が指摘されているXe2 Battlemageや当初予定されていて実際にはMeteor LakeがサポートしたAlchemist+相当のコア(実際にIntelは+とは示していないが命令セットの特性上+相当である)の話と無関係ではないと思われる。ほぼ確実にRialto BridgeはAlchemist+を使うつもりだったと考えられるが、これはdGPUとしての市場投入が行われなかった。性能も大きくは上がらなかっただろうから、Rialto Bridgeに置き換えて旧世代のPonte Vecchioと並行販売するのは避けたかったというのもあるかもしれない。これらの製造は全てTSMCなのもあるだろう。
で、今はXe2が遅れている訳で、下手にGPGPU単体での売りを計画するより、GPU+行列用のアクセラレータなどの組み合わせで開発した方が、もしも開発が上手く行かない場合に組み合わせる行列アクセラレータの世代で調整出来るといった理由がありそうだ。
それからもう一つGPGPUだとこちらの方が大きいだろうが、
自社のIFSで製造がいくらでも出来ていたこれまでと異なり、今のIntelは最先端の一部をTSMCなど外部委託している都合上、その製造品質やコストがIFSで製造していた頃よりシビアに働いているのだろう。他社先端と同じ製造会社を使えば、似たような設計なら搭載する半導体の能力や電力も同等程度になる。もちろん、製造に関わる値段も、半導体のダイ面積当たりの欠陥率も同じリソグラフィーがベースなら多少は違えど傾向として大きくは変わらないだろう。
それは即ち、価格と絶対性能の差があまり出なくなるわけだ。そうなると、アプリケーションやミドルウェアの最適化が進んでいるハードの方が有利になるという流れが生まれる。即ち、他社(具体的にはAI相手ならNVIDIA)を出し抜くには、GPUだけでは難しい。だから、GPU+目的別アクセラレータという流れを作ることにしたのだろう。専用のアクセラレータなら、アプリケーションソフトの最終的な対応は必要だが、電力性能が格段に上がるからだ。そういう流れに一旦Intelは転換することにしたのだと思われる。
今はAIが主流だが、それ以外の流れが来た時にもアクセラレータを変更すれば、性能を置き換えられるというのももしかすると将来メリットになるかもしれない。
ということだと私は考えている。まあ、Intelも今は厳しい状況だから必死なのだろう。ただ、こういう転換の流れを考えるのは大事だ。特に苦境だったりするととても、大事だ。
ここからは蛇足である。
昨日SHARPの国内液晶生産の撤退が報道されたが、新しい挑戦であれ、過去に利益を沢山もたらしたものであれ、今利益が見込めないとか、他のライバルに勝てる見込みがないなら、勝って利益が見込めるような体制に速やかに切り替えないといけない。とにかく、未来に繋がる合理的なことを試すしかない。単純な縮退型のリストラが頻繁に行われる企業はそれが苦手な企業だ。鴻海の傘下に入っても上下するSHARP然り、セブン&アイホールディングス然り。
Intelのこれがそうだが、Intelは半導体の製造技術で世界No1の企業だった。だから成功してきたわけだが、だから今苦しんでいる訳だ。なぜならTSMCの方が技術が上にあることが明確だからだ。そうなると、Intelの先端プロセッサーやGPUは、TSMCの先端でもしもプロセッサーを作っている企業があるなら、それより下になりかねない。もちろんプロセッサーの大きさを大きさ周波数によって性能は変わるのでそれだけではないが、理屈としてそうなるわけだ。その結果が今である。それを転じなければいけないから、今いろいろと事業の見直しを掛けているわけだ。
企業としてあるからには利益がなければいけない。利益が出ないのに技術が利益だとか言う人が日本には多いが、技術が利益を生むのでは無く、利益を生み出すものの一つの要素が「技術」であることをはき違えたり、忘れてしまってはいけない。企業にとって最も大事なのは売れるということであり、それに信頼と革新が結びついた時は長く成長するが、革新が技術とは限らないのだ。
革新には技術もあれば、寄せ集めの融合もある、権利者保護(著作権、肖像権、特許権など)されていたものが、権利切れになった後に売れるものになることもある。ただ安いとか、売り方が斬新というだけで成功することもある。個人では売れず、企業向けで売れる事もある。コストを削減して上手く行くこともあれば、コスト削減のその手腕がビジネスになり、結果的に業態が変わる成功もあるわけだ。
日本は、特に高齢者が増えているので、技術しかない国などと思い込む人も多いが、その発想こそが結果的に選択肢を狭めてしまっていることを忘れないで欲しいと思う。特に若い世代の社会人の多くはこれを強く理解しておいたほうがこれから先の社会で役立つかも知れない。
技術が利益を生むのでは無い。利益の中に技術が含まれることがあるのだ。まあ、それを一番理解していないといけないのは、雇用されている労働者ではなく、経営者や企業組織の役員、後は官僚や政治家、金融関係者などだが……。これは決して技術を捨てろということではないよ。あくまで、技術など昔あった成功の形ばかりに傾倒するなということだ。それに嵌まると抜け出せなくなるからだ。
Intelはそういう点では、まだ抜け出せていないが、比較的誰でも分かり易い形で今ある強みと弱み、そしてそれらをどう見直すべきか模索している様が分かるのだ。