BPO〝お墨付き〟求めるテレビ局 議論を敬遠、自律なき放送に警鐘 …… いつからテレビは変わったか?
産経新聞の記事である。
当該の記事もそうだがBPOネタになる番組ばかりが今は作られていることだけが問題になっているのが……本当にテレビは終わっているのだなと思う。そもそも、視聴者になり得るテレビ離れしている人が求めているものと、放送局や新聞社などのメディア人が考えていることに乖離があるのだろう。
そもそも、人権などで問題になるような番組は昔からあったが、多くの人が誤解しているのは、昔は規制が少なかったという話で終わらせていることが間違いだったりする。昔は、ドリフやら、全員集合やら、キンドンやらといった少し下品なコント番組やバラエティ番組なども確かにあったが、それらの数は今より遥かに少なかった。
嘘だと思うなら、図書館などにいけば過去の新聞とか読める場合もあるので、それでテレビ欄とか見れば分かる。実はそういう番組は少数なのだ。今みたいに、バラエティ番組が乱立していないし、ニュース番組なんて長くても30分ぐらいで終わる番組だらけだった。下手すりゃ10分だ。民放でそれだったのだ。だから、芸人がひな壇でちゃちゃ入れていたりする番組は少なかった。
お昼のワイドショーは2時~3時台ぐらいであったと思うが、これも殆どの場合はスタジオでの説明より中継が多かったはずだ。スタジオで専門家を交えてああだこうだという話をしても意味がないからだ。芸能レポーターや事件レポーター、政治レポーターが体当たりで取材していることが多かった。今ではあり得ないことだ。
そして、そういう番組が終わると、子供または学生番組だらけになる。シリーズものアニメとか、ゴールデンで放送していたトレンディードラマの再放送とか、時代劇の再放送とかが始まる訳だ。ちなみに、春休み、夏休み、冬休みなどの休み時は、午前中にアニメーションの再放送があったり、お昼のメロドラマ枠が子ども向けにも見やすいドラマになっていたりしたはずだ。
だから、「テレビっ子」というものが生まれたのである。今ではそんな存在日本では殆どいないだろうが……。
テレビ番組は時代毎に変化してきたが、大きく変わり始めたのは00年代に入ってからだろう。いわゆる平日お昼時間帯のメロドラマと夕方の子供番組(アニメーションなど)とゴールデンタイムの時代劇やドラマなどが無くなり始めてからだ。今では、お昼頃からぶっ続けで情報番組兼ニュース番組をやっているところばかりのようだが、家に居てもテレビをずっと点けて民放やNHKをみている人は、きっと高齢者じゃなければ少ないだろう。高齢者でも私の親とかは、殆ど見ていないし……見なくなっている。
尚、テレビ局が、多様なドラマやアニメ、映画などの番組を放送していた90年代~00年代に何があったかというと、実は視聴率が低いことを理由にこれらの番組を積極的にテレビ局は切り捨てたという現実がある。当時はその方が視聴率が良くなるという理由だったが、実際にそれで凄く視聴率が上がった番組は少なかったはずだ。まあ、ほんとのところは、スポンサーが離れ始めたからだと思われる。高齢化が進みはじめて、スポンサーの付きが悪くなったのだ。
今だったら下手すると再放送で時代劇とか、アニメの再放送とか流した方が、バラエティ番組を流すより視聴率が良くなるだろうけど、今でもそういう流れにならないのは、今となってはテレビに広告を出したがるようなスポンサーが希少であり、逆に古いコンテンツは版権元の権利料が値上がりしているものや、権利が取れない(地上放送出来ない)ものもあり一定より古い物は放送が容易じゃない状態になったからである。
また、アニメやドラマの一部は深夜に回ったことで、子ども向けには放送出来ないような作品が増え、再放送が難しいというのもあるだろう。
さらに、放送出来そうなものでも、それの放映権を再取得して放送すれば今より視聴率が取れると考えもしない放送局とスポンサーもあるかもしれない。いや最大の理由は、スポンサーと実力ある放送コンテンツのアンマッチが進んでいることだろう。
要は、視聴率が取れて売れるドラマやアニメ、ドキュメンタリーといった放送コンテンツに今のバラエティや情報番組向けのスポンサーはつけられないということだ。何故付けられないかというと、層が合わないからだ。子ども向けの番組には子ども向けのスポンサーが、高齢者向けなら高齢者向けの、女性向けなら女性向けのスポンサーが付くものだが、バラエティ番組ならとにかく全層向けの広告を手当たり次第に求める事が出来る。
しかし、これが特定の世代向けの番組になると……それ専用の広告を打ちたい事業者しか集まらない。昔は、それでも例えば子ども向けで、玩具、食品、お菓子、衛生、旅行、自動車、ゲームなどのCMが付いていたし、若い大人向けなら、旅行、家電、自動車、タバコ、酒、ファッション、化粧品、紳士服、信販などが付いていたが、今はこのジャンルのうち1つの番組で付くのは半分もないだろう。そして、同じCMが1番組(30分~1時間)で2回、3回以上回ってくることもしばしばある。昔は単独スポンサーじゃなければ、何度も回ってこなかった。
そういう状況だから、もう今あるアニメやドラマ枠を除けば特別な世代向けの制作そのものが、出来なくなっているわけだ。むしろ、今放送しているバラエティ番組やニュース番組ですらも、中身を削ってその日その日に別のスポンサーCMを番組内に混ぜてステルスマーケティングをすることもしばしばある。○○のお店にお邪魔してみたいなことは多いのがそれだ。
番組そのものが最初から食べ歩きだったりするのもそういうことだ。そうなってくると、BPO問題も増えていく。何故なら、生で沢山のひな壇芸人やレポーターを必要とする上に、番組でアドリブ話をする時間がどんどん増えていくからだ。そして、どこもかしこもそういう番組だらけになれば、他がやっていないギリギリに挑戦するようになる。で、BPO案件が生まれてしまう。
そのBPO案件も数が増えてくれば、これぐらいならOKじゃないのぐらいになっていく。というより、テレビのバラエティ番組を今でも積極的に見る輩は、そういう番組ばかり見ているから、BPO案件の一部をこれぐらいよくあることぐらいに思うようにもなるだろうから……それに乗っかり自浄は進まなくなるのもある。
実際、私はバラエティとかもう殆ど見ないから、炎上していようが関係ない。ただ、時々見て何が面白いのか判らないなと思うから見ないし、見ないから時々変なことをやっている番組を見て、やっぱり見なくて正解だったと思うこともある。BPOに連絡する気もない。
こうやって見るともう日本のテレビ業界は先がないことが見えてくる。それぐらい深刻な問題があるのだ。
テレビも新聞も、これを語る時に議論の問題とか、倫理の問題みたいな話に持っていき矮小化するのは今も変わらないのを見ると、今後もテレビの衰退は続くことだろう。人材の流出も進むだろうし、信用も低下を続けると思われる。もしテレビがネットなどから情報媒体の主役の座を取り戻すつもりなら、やるべきはまず赤字になっても、バラエティとニュース情報番組を大幅に圧縮して、ドラマ、ドキュメンタリー、映画、アニメーション、音楽などの映像ジャンルを90年代水準まで戻してタイムテーブルを再構築することだろう。
それをやれば、多分2年ぐらいあれば低年齢と若年層を中心とした視聴率が戻ってくると思われる。BPOの問題はそれだけで減少するはずだ。何故なら、バラエティやニュース情報番組の生放送や録画放送が相対的に減ってそこでの失談が減るからだ。ただ、もうそれじゃスポンサーが付く見込みが立たないぐらいに、テレビはバラエティや情報番組に時間を割り振りすぎてしまっていて、回復も難しくなった。
結果、自分達の腐った部分さえも取り除けなくなり始めており、それを審査する組織もそれに従い弱ってしまった。ちゃんと議論して問題の改善や、意見の昇華を図るとスポンサーがさらに減るかも知れないとか、視聴者数がもっと減る怖さがあるのだろう。結局、昔は問題があれば放送そのものが人気でも終わっていた番組すらも、続くようになり、BPOを土俵にする玉蟲色の判断が育つようになり、もうとまれないのだろう。
まあ、少なくとも私や、私の家族がこの状態でテレビというものを今までよりもしっかり見るような時代に戻る事はないだろう。