F16戦闘機は供与せず 米大統領明言、ウクライナに…… ぶら下がりでの発言で、米国防省内では供与を協議中。

時事通信社の記事である。


この内容は、まるで供与を今後もしないかのように見えるが、実際にはぶら下がりで供与するのかと問われて、Noと答えただけである。その一言だけであるため、現時点で予定がないというだけになる。実際には、連邦政府や国防総省、さらに議会の状況によってそれを行わざる終えなくなることも有り得る。要は、流動的な話を今の段階で切り取っただけだ。

これが示すのは、戻れない状況がさらに加速しどんどんドツボに填まっているというところだろう。
既に、NATOもウクライナへの武器供与という代理戦争の域を超えて、直接戦争に近づいていることを示している。何故今からでも、ウクライナへの武器供与を止めないのかというと、止められないのだ。

理由はいくつかあるが、最大の問題はウクライナの次の標的が極東アジアの台湾や、フィリピン周辺の南沙海域、さらにはアフリカやオセアニアの島国にも飛び火しかねないからだ。ここまでやっていながら切り捨てると、中国やロシアが、強引に動けば最終的に先進国は折れると間違ったメッセージを与えてしまうことを懸念しているわけだ。これはロシア側から見ても同じ事だ。ここで、退けばもう欧米の言いなりになってしまうからだ。だから、下がる手はない。

ここで最もメリットを得たのは、これらの武器や弾薬を製造する企業と、ウクライナのゼレンスキー大統領及びその周りの人間だろう。ここで最悪のババを引いたのは、ウクライナの戦争を望まない国民と、ロシアの戦争はしたくなかった一般軍人で徴発された人だろう。ゼレンスキー大統領は、この支援状態が続く間は、内側から内紛が起きない限りは安泰だ。

そういう点では、この戦争……もう行くところまで行くしかない状況なのかも知れない。



さて、F-16という戦闘機について書くと、何故F-16なのか?

それはマニュアルが豊富であると同時に、戦闘機としては安価で訓練がし易いというのがある。
その理由は、General Dynamics F-16 Fighting Falconシリーズは世界で最も売れた米国産の戦闘機だからだ。これまでに4000機以上売れており、2位以下の製品を圧倒するほどの販売実績を誇る。さらに未だに、近代改修モデルがうまれている。

これの開発は、
1960年代にLightweight Fighter(軽量戦闘機、近距離作戦の戦闘機)として開発(コンペティション)計画が持ち上がったものである。ちなみに、コンペではNorthropのYF-17との間でポイントを競い、General Dynamics YF-16が選ばれた。それが、正式型番のF-16へと格上げされたのだ。

だから、米国では主に本土の防衛に向けた空軍の機体として運用されている。長いこと本土の空軍はF-16が戦闘機の主力のはずだ。そして、やっとF-35Aに置き換え始めたところにある。

日本ではF-16を運用していないが、
日本ではこのライセンスバリエーション機体(当初のF-16とは翼面仕様が異なる日本専用)で三菱 F-2 Viper Zeroが支援戦闘機(現在は戦闘機となっている)として配備されている。製造や保守は三菱である。

即ち、訓練しなくても使えるほどとは言わないが、それだけ多くの国で使われているため、訓練期間も短く済み、さらに訓練が欧州の国々でも導入されているが故に出来るというメリットがあり、欲しがったと考えられる。これなら、NATOの脅威にもならない。何故なら、既にこのF-16はNATOの主力からは段階的に外れていく航空機体だからである。

じゃあ、これと戦車があれば勝てるのかというと、分からない。
そもそも、戦車の時にも書いたが、外からの支援でどんなに優れた武器を入れても、それが上手に運用できなければ勝てない。もっと言えば、相手も命がけで攻めてくるわけで、相手の兵器や戦術の方が上手なら、こっちにF-16があっても負けることはあるだろう。F-35AとF-16A/Bで2対2のドッグファイトならF-16は高い確率で負ける。有視界になる前に、撃墜されているという武器の違いもある。ロシアが有能なパイロットとコロナ前までは量産には入っていなかったと思うが、この1年で戦時体制に切替えたことでSu-57(T-50)を大量に生産していて実戦投入でもしてくれば、F-16がいくらあっても、厳しいかもしれない。

戦時に最も怖いのは、国力や国土がそれなりにある国だと、完全な軍隊優先モードに入ると、昔の日本もそうだが戦時動員によって工業生産の殆どが軍需向けになり、猛烈なペースで兵器が生産されるようになる点にある。

ロシアから欧米や日本の企業が撤退しているし、一部の機械や車輌などの工場はロシア政府が接収しているケースもある。今となってはロシアが今どこまで自国での先端兵器開発が出来る状態になってきているのかは、衛星写真で分析出来る部分を除けば分からないだろう。


そういう部分まで見ると、既にロシア側もこれは特別作戦では無く、戦争としているがこの戦争は、落としどころが見つからない限りは、NATO等からの武器供給の拡大が続く可能性が高い。本来ならその落としどころを探る動きにゼレンスキー大統領が率先して動いて欲しいわけだが、兵器を望んでいるわけで、このままNATO各国にも戦火が飛び火する懸念は徐々に強まっていると考えるべきだろう。


<奇妙なほどに下がる社会の関心という静けさと、増加する強硬派の発言>

尚、それでもNATO各国や米国、日本などの雰囲気は至って他人事になってきているのは、1年が経過しようとする中で、今までロシアとウクライナ以外ではポーランドなどに流れ弾が飛んできたぐらいで、何も起きていないことと、この報道に対する慣れやウンザリという雰囲気が、意識の緊張を引き下げているのだ。人は、緊張をずっと維持することは出来ない。そのため、ある時点を過ぎると一般の関心は下がっていく。なるようになるぐらいの流れになるのだ。

それに対して、強硬派と呼ばれるいわゆる火に油を注ぎたい輩は、周りの勢いが落ちてくるにつれ埋もれていた発言が、徐々に機能し始める。それが、争いを大きくすることも有り得る。この先どうなっていくのか分からないが、ロシアとウクライナが協議をする場を今一度整えることも大事になってくるだろう。

放置していて良いことが起きるようには今の状況から考えるとないだろう。それが、物価高などで各国の政権の求心力に影響が出る中では、難しいのだろうが……何せ、求心力が下がってくると強硬派などはっきりした発言をする人の意見を飲んだ方が、政権にはメリットがあるからだ。有事が起きている場所がある中で、平穏が協議によって再び訪れるはずという意見はなかなか通らなくなる。それもまた、世が悪化するときに不可逆的に悪化して行く流れの一つである。既に断ち切るのは難しいのだ。