「パナ、録画用BD生産完了」から考える「録画」文化の衰退…… 何故、録画しなくなったのかを真剣に考える。

昨日のWatchの記事である。


そもそも私の発想で言えば、BDの生産終了=録画文化が終わった訳では無いと思っている。実際に、家にレコーダーがあれば、結構多くの人がテレビ放送のHDD録画はしているはずだからだ。今も……問題は、それをコールドアーカイブとしてBDなどの他の媒体にコピーして永久保存だとかしているかにある。

たぶん、今はそれをする人が殆どいなくなっているのでは無いかと私は思っている。
実際、私はテレビを殆ど見なくなったが、TBS世界遺産をテレビに繋いだHDDに録画している。殆ど見てないが……ただ惰性で録画が続いている。それを昔から、BDレコーダーに飛ばして、焼いていたのだが……今はやらない。下手すりゃ見返すこともない。ただ、時々見ることがあるので、毎週録画されている。

私の場合は、世界遺産だが人によってドラマだったり、バラエティだったり、ニュースだったりを録画するという人は多いはずだ。
問題は、それをBDにアーカイブするかどうかなのだ。

<アーカイブが廃れた要因は沢山ある>

実は私が、BDにコピーするのが嫌になった理由の一つは、ダビング10が思った仕様じゃ無かったことにもある。
テレビにレコーダーを繋いで、そこからLAN経由でBDレコーダーに転送しようとするとダビング10では1コピー分しか転送しない。これは、BDにコピーするときもそうなのだが、回数分をユーザー側で指定して1度に飛ばせることを望んでいたわけだが、それが出来なかったのだ。
これを知ったとき結構ショックだったのを覚えている。

これ、かなり不便で1回の転送で1回分だと、9回分がテレビなどのHDDレコーダー側に残り、飛ばした先に1回分が入る。私はアナログでは時々やっていたし、ダビング10になったBDでも数回凄く時間を掛けてやったのだが、もしも10回分をいろいろ編集して違うパターンで保存しようと思うと、10回同じ動画を転送しないといけない。送った先で4回+ムーブ1回と4回+ムーブ1回を分割するとか出来ない訳で……(もしかすると今は出来る製品があるのかもしれないが)。本当に面倒くさいのだ。

BDレコーダー内に保存した動画なら結構簡単でも、CATVのHDD付きSTBとかからだと……もう何か面倒くさくなってやらなくなる。そういうのが重なると、だんだんやる気そのものが失われ、いらんのは消そうとなる。


それともう一つあるのが、BDの品質の問題だ。実はこの十数年の間に録画したBDの一部で今は正常再生出来ない(再生は一応出来るが映像の一部が飛ぶ)ものがある。それ見てBDはダメだなと実感した。アナログのDVDでも過去にあったが、アナログDVDの場合は、コピー制限がなかったので、2枚とか作っていたし、1枚になればもう一枚をコピーすれば2枚体制に戻せた。BDはそれが出来ない。もちろん、エラーがなくファイナライズしていないディスクなら、BD Backという機能でレコーダーに戻せるが……1つのコンテンツスクランブル付きのディスクを2つにする事が出来ない。だから、消えたときのガッカリ感を考えると持つ理由が無くなるのだ。本当の本当に心から萎えるから……。

3つ目は、録画したいコンテンツが無くなってきたことが挙げられる。これは、バラエティ番組が増えてBDにするまでも無くなったということだ。そもそも、最近はニュースすらテレビで殆ど見ないし。


4つ目以降は、媒体の問題だ。速度が遅く容量が少なく、嵩張ることだ。これも凄く重要で年々強く思うようになった。正直、スマホのストレージでも128GB~256GBに達しており、そのアクセススピードは毎秒数ギガバイトの領域にある中で、速くても36Mbps=4.5MB/sの2倍~6倍(最大は12倍だが録画用のドライブや媒体は遅めのはず)で9~27MB/sというのはUSB2.0時代のHDDより酷い。この速度で50GBの2層ディスクに書き込むと、6倍速でずっと書き込んでも理論上およそ30分、2倍速だと1.5時間掛かる。
これで1TBのHDDを丸ごとダビングするとしたら、てきぱきやっても10.3時間掛かるのだ。取り溜まってくると萎えてくる。そして、録画した媒体を保存する場所をとる。

個人的には、この4つ目が最も大きい。冗談抜きで時間が掛かるからだ。その間に別のことをやるにしても、シームレスに次のディスク作成をするには近くに居てある程度意識しておかないと、書き込みが終わって暫く経過していて、録り溜めた映像のアーカイブが1日じゃ終わらないようなこともある。

終いには、そんなに見ないしもう消せばいいやとなっていく。


さらに、著作権教育の問題もあるかもしれない。
そもそも、人の為に録画することも想定してダビング10だったはずだが、これほど手間が掛かるなら、人に頼まれたり頼んで渡すこともない。もっと言えば、学校でどうやって著作権法を教えているのか知らないが、金銭の発生しない学校の親しい友達ぐらいの貸し借りすらいけないことのように、子どもは学習し始めているはずだ。そりゃあ次世代の大人に繋がる子どもに流行る要素がなく、10年後に大人になる子どもは「BDレコーダーなんて要らんし」になる。

だからメーカーも、SDメモリーカードなどの媒体にFHDで私的録画する規格などを考えることは終ぞ無かった。SD画質なら出来る製品も今もあるが、今では使う人は殆どいないだろう。既に、FHD対応を今更やっても普及する可能性も低い。スマホはiPhone主流だし、テレビ録画よりサブスクで見てアーカイブしない人の方が若者になるほど多く、年齢が高くてもよほどの趣味が対象でなければ、アーカイブまではしない。


ついでだから全部出してしまうと、録画して残したいコンテンツが少ないなら、Panaのような高級なBDのブランクメディアを20枚買うぐらいの価格で、当該のDVDやBDのコンテンツがより綺麗な画質や音質で買える場合もある。まあ、日本のコンテンツは馬鹿高いので、そういうケースは希だが……。海外の映画とかの放送を録画して、年に1枚ぐらいBDにしている人がいるなら、年に1枚そのセルディスクを買った方が結果的に満足できてお得だろう。テレビ放送版とセルディスク版では音のノーマライズが掛かっていないセルディスク版の方が良いし、画質も上になるからだ。

この問題は、DVDでは薄かった。なぜなら、DVDは世界的にブランクメディアも売れたことで、量産効果が働き媒体の価格が年を追う毎に下がったからだ。しかし、BDは最初期ほど高くはないが、この5年ぐらいはお高い水準を維持している。それでむしろメーカーの撤退から品質が下がっていたり、物価高で価格が上がっているかも知れない。


<最大の問題はBDという媒体が今も映像における
             コールドバックアップの主軸であること>

では、ダビング10がなく、EPN方式を採用していたら今もBDブランクメディアは売れていたのかというと、そうは問屋が卸さない。
今も主力のコールドアーカイブがBDならば結局は売れていないだろうと考える。

これは、Watchの記者も甘い点だ。
今のベアディスク仕様ではないが、Blu-ray Discの初代が登場したのは、ソニーのBDZ-S77が始まりだ。実はBlu-ray Discは発表から今年の3月3日で20年、4月10日で発売から20年になる。元々の開発名はDVR-Blueだったこの媒体は、ソニーとパナソニック(松下電器産業)が共同で技術を持ち寄って開発したものだ。20年と言えばリラックマとかプリキュアシリーズが20周年らしいので、その頃に生まれたのがBDだ。

ちなみに、DVDは1995年にデジタル・ビデオ・ディスク(ちなみに名称はデジタル・バーサタイル・ディスクの略に改められた)として発表され、96年に日本を皮切りに段階的に世界に発売された。そう考えると、DVDとBDの間には8年しか間が無かったことが分かる。

逆に言えば、だから転送速度が36Mbpsで等倍速だった訳で、50GBという容量で2層だった訳だ。これが、2023年現在も録画大国日本で映像録画に使う媒体の主流だと考えると、どう思うだろうか?

βビデオやVHSとか考えるとそんなものではないかとか思うか……まあ、βやVHSも間に画質アップの進化やGコード予約、CMスキップやカット技術、Y/C分離など様々な機能が追加され。ハイビジョンやワイドクリアビジョン対応、デジタル対応まで行われ、互換性はあれど最新の媒体では画質が別物にまでなった。BDは容量アップ(最大128GB)と3D対応、等倍速の強引な速度アップ仕様などが追加されただけである。

即ち、コールドアーカイブの媒体が時代に合わせて進化しなかったのだ。
だから、録画媒体が徐々に時代に沿わなくなり廃れ続けてきたわけだ。この原因が、メーカーにあるのか著作団体にあるのかは分からないが、一つ確かな事は、SDカードのようなNANDフラッシュの媒体でセルや録画UHDやFHDの媒体仕様の規格を出さなかったのが、その一因だろう。 要は、ディスクから、NANDフラッシュメモリーカードに移ろうと努力していれば、今もある程度は残ったと考えられる。

何せ、今ではBDより容量単価も安く、高速だ。SDカードなら嵩張らない。
次の光ディスクを出すことはないと決めた時点でそっちで規格を考えるべきだった。それが出来ていれば今ほどの状況にはならなかっただろう。

まあ、それでもやはり利用者は減っているだろうが……。

高齢化も進んでいるし、また著作権保護が厳しくなる中で、商用の権利を求めないMADなどの自作切り貼りファン動画の減少※、国内でテレビ局が製作するアーカイブしたくなるコンテンツそのものが広告収入の減少で減ったこと、さらに共働き時代に入り、テレビを昼間などに見る主婦(主夫)や子どもなどの人口が減ったことも影響しているはずだ。これらの層が減ると、HDD録画はある程度行われても、アーカイブする時間は減っていく、結果的に見たものから消していく形になる。

※これは面白そうなコンテンツを広める効果に繋がると同時に同じようなものを作りたいという点から所有欲にも影響する可能性があるが、一方でこれが出来ると言うことは、元の映像そのものがネットなどを通じて広く頒布される懸念もあるので、難しい。

結局アーカイブを取るには金銭的にも時間的にも一定以上の余裕が求められるのだ。そして、その余裕が減る中でアーカイブに残すだけでも時間を取られる古い媒体だと嫌気が広がる。嵩張るし、容量も少ない古い媒体など誰が好んで使うかという話しだ。それでも、絶対に残して起きたいぐらいに思う人じゃ無ければ、保存しなくなっていくという一連の流れに、物価高が追い打ちをかけ、さらに権利者団体がBDレコーダーにも補償金を掛けるとか話が出てくると……実際の媒体価格(そもそもレコーダーの補償金が新設されるだけで、元々掛かっている媒体の補償金が上がる訳では無いのだが)に影響はなくても、イメージは更に悪化する。



<コールドアーカイブを増やすのは難しい>

尚、これからコールドアーカイブを再び国民の間に戻すのは難しいだろう。その最大の理由は、そういうアーカイブしたいコンテンツが減ってきていることだ。何故減っているのか?それは、少子化で単純に日本の国力が下がっているからだ。若い人が文化を生み出す国であれば、コンテンツはどんどんうまれてくるが、その若い人が減ればコンテンツは出て来ない。経済も回らない。

だから、日本で主流となる地上波民放のテレビ番組も質が上がらない。広告収入の減少が制作費を減らすし、もっと言えば子どもが増えなければ、若者向けのコンテンツは増えない。ファミリー向けのコンテンツも高齢化していく。そうなると、その場限りの番組が増えて行き、低予算番組が増加するから、録画したくなるコンテンツは減っていく。

そして、テレビ局なども録画させたいとは思わなくなる。録画させるより、パッケージのコンテンツを買ってくれという方が、CMかっとされて録画されるより稼げるからだ。広告収入そのものが減るなら、セルで売るしかない。そういう流れになってしまった。

また、これらの装置や媒体を作るメーカーも今では、日本の純粋なメーカーはソニーとパナソニック、そして船井電機ぐらいだろう。SHARPはFoxconn Technology Groupの傘下、東芝だったTVS Regzaは海信集团有限公司(ハイセンス)の傘下である。 日立はテレビ事業から撤退し、三菱も事実上撤退した。そして、BDAやSDAなどで幹事メンバーなのはソニーとパナのみであるが、ソニーもパナソニックも実際問題として、AVC関連の事業のレコーダーに関してわざわざ日本の為だけに、何かをするつもりはもうないだろう。労力の割に合わないからだ。
人口が増えて居れば別だろうし、途上国の一部でこういう文化が花開いていたなら違っただろうが……。

即ち、もう終わりに向かっていると言うことである。

これが、良いのか悪いのかというと、経済的にも社会的にもいろいろ日本らしさを失っていく段階であることは間違いない。ただ、今からこれを問題だから何とかしようとしても、手遅れだろう。やるなら、東京五輪の前にはこの問題を解消しておくべきだった。既に、日本の人口は激減一歩手前にあるだから、テレビどころかあらゆる商品で日本でしか売れないモノが伸びる要素そのものがない。
商機として何か新しくやるには難しいのだ。どうしても、それを生み出すには海外でもこれならある程度受け入れられるとアピールできる品を作る必要がある。それが出来れば、何とかなるかも知れない。