米政府 ウクライナにロシアとの交渉に前向き姿勢促す…… 前向きではなく「個別の用意がある」レベル。

テレビ朝日の記事であるが、元はワシントンポストなどに寄稿されている記事である。内容はかなり長く、テレビ朝日の記事は完全なチェリーピッキングである。


WPの記事を読めば分かるが、米政府はウクライナが勝利することを望んでおり、これは欧州各国も同じであると考えられる。その中で、選択肢の一つとして、和平交渉から外れるなという意味での交渉をウクライナに投げかけたというものだ。米国政府がロシアと交渉する見通しを立てたのではなく、単純にウクライナに交渉する用意を持つべきじゃないかと呼びかけただけである。

即ち、米国がロシアと停戦について協議したとか、終戦の協議をしているということではないし、説得を試みている訳でもない。あくまで、紛争の主体はウクライナだからだ。問題は、それに対して欧州の経済が急激に悪化していることや、新興国での貧困度合いが取り返しの付かないほどに悪化する兆しを見せていること、その一方で、ウクライナの国民感情と、欧州の世論感情が徐々に乖離し始めており、ゼレンスキー大統領のただ各国に対して支援を要請したり、他の国を名指し非難するだけの状況に対して、不満が以前より高まっていることも間違いなくあると考えられる。

これに、民主党に対する中間選挙の情勢調査が、かなり不利な方向で吹いている恐れがあるという情報も一部にあり……米政府としてレームダック化を避けるための行動も含んでいるのだろう。これは、明らかに共和党の一部や無党派層に対する柔軟さを示すための手である。


尚、本気で前向きに動くつもりなら、ウクライナを介さずに、米国がロシアと連絡を取って、先にウクライナとの和解案の協議をするだろう。
米国にはその権利があるからだ。あれだけの武器供与や資金支援をしているのだから、その交渉で示した内容を、ウクライナに伝えて飲むか飲まないかをウクライナが決めてという流れでも良い。そうしないのは、記事中にもあるが、今ここでそういう流れを作ると、ロシアを調子づける可能性があるという懸念があるからだ。

これだけ、対立し状況としては押し返している中で、下手な交渉は出来ないという訳だ。これは、ある意味では今の朝鮮民主主義人民共和国が産まれ残った原因とよく似ている。あれは、ロシア、中国側に付いた国だが、彼らでも制御は難しい国だった。これが、今度はウクライナになり、ある種では自国を守り切ろうとしている訳だが、各国が投じた戦費に見合った恩恵がないどころか、ウクライナについた国は、今じり貧に向かっている訳だ。その一方で今更、手放すわけにも行かない。なのに、ウクライナの大統領は空気読まずにデカい顔しているのに、徐々に腹立たしくもなってくる。表向きは支持していても、援助を受ける側ならもう少し、態度を軟化させても良いじゃないかと思う国が出るのは当然だ。

それに米政府が配慮して、ロシアとの交渉や他の国々への態度の見直しを図って貰おうとしているが……それも上手く行かないという部分も透けているように見える。

まあ、この侵攻前からゼレンスキー政権とロシア、欧州は元々あまり上手く行っていなかったことは事実だった。
何故かその中で、バイデンはその飛び地のウクライナを支持する動きへと転じた。それに対して、ロシアはそれがこんなに強いとは思っていなかった。だから、敗走を繰り返すことになった。そして、威信を砕かれたロシアは、より戦費を入れて抜け出せなくなると同時に、米国と関係を持つ国々も、米国の号令に乗ることになる。

それが結果的に誰にも止めることが出来ない分断を生み出した。まあ、この中にいくつもの別の最善もあっただろうし、もっと大きな不幸も選択肢にはあっただろう。今は結果的に、こんな状況になっているだけで。

このウクライナとロシアの紛争で一番、割を食ったのはウクライナの国民だが、一番これで成功したのはゼレンスキー政権であろう。彼らは多くの支援を得て、支持率10%前後から一気に殆どの残っている国民が支持してくれる情勢へと駆け上がったからだ。各国も、今の状況でゼレンスキー大統領に異を唱えることは難しい。何でも言えば、通るような雰囲気へと変わった。

だが、それはそれ以上に多くの代償を払うことになっている。
新興国というより貧国では、既に穀物が買えない状況になっており、飢餓が深刻だが、それに対してWFPなどの支援は行き届き難くなっている。理由は、世界を襲っている物価高の影響だ。これにより、毎年同じ額の支援をしていても、支援できる物資の数量が相対的に減っていく、そこに欧州や米国は不景気の懸念が出ている。さらに日本を始めとして、世界各国では対ドルでの通貨安の影響で、拠出額を昨年より10%増やしてもドルベースだとマイナスになる国もある。日本は顕著だ。

欧州は物価高と不景気が深刻な度合いで起きつつある。スタグフレーションにもう突入していると考えて良い。これで、どこかEU域内の大手銀行でも不履行を出せば、リーマンを軽く超える恐れもある。

他にも事情はあるが、米国すらも中間選挙で負ける恐れが出て、再びトランプが戻ってくるかも知れない情勢を作り出しており、英国は既に2人の首相が交代している。1人は、コロナ渦での行動の問題も含まれているが、もう一人はインフレ対応の公約が市場から支持されず、金融不安の懸念を招いたことで短期交代となった。

これが全て、ウクライナのせいとは言わないが、バイデンも六月にゼレとの電話会談でキレていたとう報道も今年の10月に報道されており、米政府もゼレンスキー大統領が必ずしも、米国と手を取り合える関係とは言えなくなっていたことが分かってきている。とにかく、ゼレンスキー大統領は、要求する割に、これを終わらせる手段を持ち得ないことがようやく、米国でも記事に上がるようになった訳だ。

まだ、日本ではこういう記事は解禁されていないが……。

もう、今の状況でゼレンスキー大統領降ろしは出来ないし、だからといってロシアが勝利なんて流れも、今の時点ではあり得ない。ただ、この先も今のウクライナ政府の態度のままで、紛争が長引けば、流石の西側諸国も、ウクライナ支援への限界を示すようになるだろう。その時に、果たして、ウクライナ側にとって有利な条件で上手く着地できるのか、それともシリアのように何年も紛争地になり、事実上元通りには戻らない国土になり、それを支えた欧米や意固地に戦い続けたロシアも、弱るのか……後者の未来がありそうで怖い。




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