キー局決算に見る放送業界「史上最悪の危機」 …… ネットや新聞では誰も本質を述べず。

東洋経済オンラインの記事である。


これは昨日も書いたことだが、無料の地上テレビ放送やBS放送が何故面白く無くなるのかというと、コンテンツに掛けられる予算が急激に減っているからだ。見る人の高齢化はもちろんだが、日本にある産業自体がCMを減らしており、スポンサー収入が減れば、テレビ局など放送局や報道局(新聞社など)の利益も減っていく、利益が減れば制作費も減っていくのだ。

すると、ひな壇番組や食べ歩き番組、視聴者参加型という体の街ブラなどに変わっていく、これならスポンサーに飲食店や食品会社などでもついていれば、得てせずともその広告を流すのと同じ効果も与えられる。この2年で何も変わっていないか悪化しているなら(最近はテレビニュースをみる比率もかなり下がっているので……全体として増えているのかは分からない)、この数年では、テレビのニュースすらも、○○がお買い得的な内容を必ず週に1本どころか、きっと今では毎日1本ぐらいは伝えているのも、いわゆるステルス広告を流すことで、CMをしているのだ。それで、正規のスポンサーとは別の流れで恩を売り、広告収入に繋げているだけである。

尚、時々ニュースで見る限りでは、その結果として安い店などをCMすることが増えてしまう可能性がある。デフレ脱却も出来なくなるわけだが……。テレビを見る層が、高齢者や子育て世帯が中心になるはずなので、高い店など扱うと、視聴率が落ちるというのもあるのだろう。


<広告が増える見込みは国内では「ない」>

昨日も書いたが、ここで大事なのは新規で膨大なお金を出してくれるような広告が国内市場において急増する見込みは、今の日本では既に「ない」ということだ。理由は単純で人口が減っていることと、テレビをながらであっても、リアルタイムにみている層の多くが、高齢者であり、購買層ではないからだ。

その高齢者向けのCMもそろそろ頭打ちであり、これから減っていくと考えられる。既に高齢者人口も減少期に入っているからだ。比率は上がるだろうが、もう高齢者市場もCMすれば成長する産業ではないのだ。だから、テレビCMは減っていく。もっと言えば、高齢者を狙ってCMをしても、高齢者は金がなければ買ってくれない訳で、今の日本の政治情勢だとそれをより短命にさせる方策が打たれているからだ。


-響かない世代が増える広告市場-

尚、広告の中で最も効果がある客層は誰かというと、「子ども」である。
しかも、幼児~小学生ぐらいの子どもである。理由は、彼ら彼女等は好奇心や欲求が強い上に、成長するからだ。
子どもを育てている親なら分かるが、例えば被服費は、0歳なら1ヶ月~3ヶ月で新生児用の衣服は合わなくなる。そこから半年~1年で2回ぐらい同じサイズの衣服から脱皮して次のサイズに変わっていくだろう。13~17歳ぐらいまでは、だぶだぶの大きめを裾折りして買っても3シーズン持たせるのは難しい。

逆に、成長が止まったらもうそこからは、10年だろうが20年だろうが、サイズによる合わないという心配は、たった一つだけだ。メタボリックシンドロームで裾がキツいとかになった時だ。流行廃りといったその時期のデザインやセンス(好み)の変化を無視すれば、古くなって解れたり破れない限り一生ものとして来続けることも出来るだろう。

衣服だけでこれだが、実はこれだけじゃない。
子どもは、例えば子ども向けアニメーションでおもちゃのCMを見れば、あれが欲しいと思うし、店先に並んでいる商品すらも、大人なら何に使うんだこれというようなものでも、興味を持つことがある。それを、CMで流すだけで、あれが欲しいと目を輝かせるのだ。これが殆ど何にでも向いてくのは、幼児期~小学校低学年ぐらいまでだ。

それを過ぎてくると、だんだんと興味(自分が好きなもの)と世相(自分の周りで評判のもの)だけに目を向けるようになる。
尚、大人になっても世相や興味というもは維持されるが、子どものように振る舞える人は減って行く。どうしても、生活というものを考えるようになるし、一定の年齢を過ぎると物欲や新しいものへの興味が減少してくるのである。大人でも一定程度残るのは「食欲」と睡眠欲ぐらいである。

ここで、少し考えて貰うと分かるが、今日のテレビ番組表を見ても分かる事だし、上記もしたが最近、食べ歩き番組とか多いと思うはずだ。これが何故多いのかというと、食欲は年を取ってもある程度は残るからである。最高のCMでもあるが、最高のコンテンツでもある訳だ。ただ、これに偏っているからだ若い人に限らず、見なくなる人が増えるのだが……

話を戻すと、日本はそこまで無料の広告付き放送が成り立ちにくい状況にあるわけだ。
そして、そうなると、コンテンツも素晴らしい物は作られなくなる。また、コンテンツの質も偏ってくるのだ。

尚、若い人だってテレビをみている人はいるが、それでも録画で見ている人が多いなら、広告ビジネスとしてはなり立たない。CMを飛ばされる可能性が高いため、番組を制作する価値を失うからだ。

アニメーション作品などが深夜枠などに移行していくのは、放送単価が安いというのもあるが、大人向けや一部のオタクやマニア向けに制作されている作品は、制作委員会で作られているためCMも制作委員会関連のCMになっているからだ。その作品に関連するCMが中心なら、カットされてもある程度カバーできる。場合によっては、CMそのものを作品の内容と連動させてバリエーションを持たせれば、CMを飛ばさずに見て貰える可能性もある。最初からパッケージやサブスクリプション、メディアミックスの他のコンテンツが売りで番組そのものがコンテンツでありCMなら、本編を見て貰えるだけでも効果があるわけだ。但し、それが良質なコンテンツとは限らないだけで……。

これも結局は、作品自体が一種のCMであることを示している。


ドラマの場合は昨日書いたように、人を使うが故の難しさがある。人を使う作品は、良質なコンテンツになる演技者としての人材(俳優)が必要だからだ。ただ、今では芝居だけで暮らして行けるような人は、若手でも少ない。プロアマ問わず劇団も減少しているし、劇団に所属していて花形で人気の人でも、それ以外の仕事をしないと生活が成り立たない場合も今ではあるはずだ。それだけ、少子高齢化というものが、パイを狭めているわけだ。

そこに、アイドルや芸人という本来なら、ちょい役ぐらいしか来ないはずの人々が、主役を張る番組が増えていく。そして、それを追っかける人が、作品を手当たり次第に買う方が、利益を出すようになると、演技がいくら上手で哀愁漂う芋役者(ハンサム、イケメンではないが演技が上手い役者)で、芸人のように芸風やイメージで決まっていない本当の役者はお払い箱になる。

そして、作品の売れ方が、カジュアルへと向かう。
その時、その年では最も売れたのは確かだが、後の世ではさして売れない作品になることもしばしばある。そもそも、日本の邦画があまり売れないのは、吉本芸人とか、ジャニーズを使い過ぎて、それのCM効果で稼いでいるからだろう。逆に、そうじゃない作品がもっと悲惨になるのは、中身がしっかりしていても、テレビなどではCMしてくれないからだ。


<テレビがオワコンなのは間違いない
          ネット放送はまだ時間がある>

尚、テレビがこれからも成長しないのはもう間違いなく現実である。
これは、どうやっても人口が増えないかぎりは下がる市場なのだ。現役世代の減少と高齢者の増加で広告が効果を出さなくなってくるからだ。
だから、コンテンツを作ってそれで稼ぐしかないが、そのコンテンツを作る余力も既に尽きつつある。時々当たるぐらいだ。その状況では、厳しい。そもそも、地方局などはどう考えても、広告が貧弱になっているし、キー局もろくな広告が流れていないはずだ。

それで、これまで成長し、維持費がどんどん上がってきたデジタル時代の放送を支えようとしても設備費だけでも高いのに……って話だ。
今後は、2001年~2011年までに行われたデジタル化の機材劣化が始まる訳で、コストは更に上がるだろう。そう考えると、テレビが放送に掛けられるお金というのはもう減っていく以外にないのだ。

ひな壇芸人でも使える今は良いが、そのうちそれすら難しくなるかも知れない。


ネットはAmazonとか、Netflixという米国産のサービスで見る人が多いが、日本の無料テレビ放送と完全にバッティングする放送をしているのは、日本では事実上AbemaTV(Abema)だけである。

ネットで成長する可能性が一かけでもあるとすれば、あと数年以内でテレビからどこまで奪えるかが勝負だ。日本の企業ならAbemaTVやniconico(ここはYoutubeの出来損ないのようになったので、今更難しいだろうが)のようなネットで無料ライブ配信や放送出来るところが、人々が求める放送ジャンルの多くをカバーし、テレビに匹敵する広告を付けられるかどうかによる。

これは昨日も書いたことだ。ただ、今の段階でも黒字化出来ていないので、今回のFIFAのお陰で獲得出来る利用者を、この後に引き留められるかどうかが鍵だ。今のアニメと韓流と変なドラマ押しでは難しいが、時代劇とドキュメンタリー、ライフスタイル(料理、健康など)と天気をウェザーマップかウェザーニューズにお願いして流して貰えば、安定した視聴者を勝ち取れるだろう。

そこが最も難しいのだが……
難しいのはテレビ朝日とその地域放送局の立場だ。そして、ドラマやドキュメンタリーなどは出資している会社の関係性が如実に出てくるのでそれが影響する。Abemaが煮え切らない最大の原因は、テレビ朝日が2番目の出資になっていることにある。何故これが、煮え切らない原因なのかというと、例えばニュースだが、ANN地域放送局のニュースが流せるなら、Abemaはもっと利用者が増えるだろう。チャンネルに地域ニュース専門を作って、24局だったかな?それを15分~30分枠ぐらいで全国回せば、12時間ぐらいで一巡できる。だがこれは出来ないのだ。理由は、広告収入の問題や区域外再送信の問題がAbemaにも地域放送局にもあるからだ。

テレ朝自体にも問題がある。それは、テレ朝はKDDIがビデオパスとして供給していたTELASAのサービスに折半出資したことで、無料のAbemaが成長されても困る立場でもあるわけだ。サイバーエージェントとしても、朝日の番組ばかりが欲しい訳では無い。安定した出資者は必要だが、その匙加減は難しい。

そして、これらが響くのは日本のドラマと日本のドキュメンタリーだ。何故なら、これらのドラマやドキュメンタリーの大半は、放送局の予算で作られているからだ。制作著作がテレビ朝日、TBS、フジテレビ、日本テレビ放送網、テレビ東京などとなっているわけだ。朝日なら扱えないことはないが、朝日はTELASAがあるのでそっちに回したい……。

ちなみに、アニメーションは新作が放送されているよ?というのは、先に書いたが制作委員会が製作しているため、放送局の名が入っていても、その出資比率が低いなら、他に回すことも十分可能だ。韓流が放送しやすいのは、権利の単価が安く、契約が楽だからだ。日本のようにいくつもの権利者と交渉する必要も無く、パッケージ化されているのも大きい。日本は制作委員会でも、全部の権利者と折衝が必要なケースが間々あることは知られている。

ここに、テレビ局が出資しているという影響が出てくる訳だ。しかも、自社で別のWebメディアを持っている局が……。


その結果、現状でも悪くはないが、中途半端でもっとこれがあれば魅力があるのに、実際にはもうこれ以上は無理なのかな?という魅力に欠けるサービスとなる。黒字になりそうでならないわけだ。

AmazonやNetflixの限界が日本の限界だと思う人は日本の芸能とか放送の専門家ほど多くいるが、彼らが見ているのは、資本とか権利とか、コンテンツの売り方、裁き方という目線ではなく、日本の慣例的な部分だけで決めているきらいがある。そうすると、放送の方がまだ先があるように見える訳だ。コンテンツも頑張れば良いものが作れるし、方針次第でより良くなると……しかし、現実は真逆だ。

少なくとも無料放送は、今のままでは広告が弱ってきておりもう無理なのだ。だから、パッケージなどの媒体化を行ってきたが、それも今の社会環境だと日本では成長はしないだろう。サブスクリプションは海外まで考えれば売れるが、それを当該の記事では否定しているから、伸びない……扱いだ。じゃあ、無理じゃないということだ。

放送はまだ残ると言う答えになっていないのだ……

実際は、放送はもっと厳しいが、ネットはまだ成長の余地がある。
但し、それを阻害しているものが資本やコンテンツの権利者関係で存在するので、それを薄めないと難しい。Abemaの場合は、TELASAのKDDIとの折半事業をAbemaに統合して、テレビ朝日の出資比率を2割ぐらいまで下げ、KDDIが3割、サイバーエージェントが3割、残り10%を他にでもすれば、ドラマなどの他の社の権利を引っ張り込める可能性は高い。

AbemaがFIFAのサッカーを獲得したのは、そういう権利物として考えると額は高額でも、インパクトや確実性が高かったからだろう。日本のメディアの権利に関係しないため、扱いやすいのだ。ただ、それにCMが付いてこないだけで……。CMが安定して得られるには、CMスポンサーが増えないといけない。CMスポンサーが付けば、買い付けられる番組や自主製作の優良なコンテンツ制作も可能になる。

それは、最近は一頃より陰っているが、人気YouTuberなどが示したそれと似ている。結局、何をするにも良い物を生み出すにはお金が必要なのであり、その良いものを一定の期間までにしっかり集めて置かないと成長力は失われるのだ。


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