日本の月面着陸機「オモテナシ」通信不安定に…バッテリー切れの恐れ …… 不自然な名前(略称)とプロジェクトにおける鬼門の話。

読売新聞オンラインの記事である。


<裏向きの「表なし」衛星は、ツキに見放され、尽きるのか?>

宇宙に出てしまったら、今動く機能の中で、どうやって姿勢制御をするのか?諦めずに電源が完全に失われるまで、対応し続けるしかない。
諦めるな(Luna)、尽き(月)るな(Luna)という意気込みが月に届けば、上手く行くこともある。

ただ、通信機が正常に動いていないというならば、回復は困難だろうし、果たして姿勢をある程度立て直して、太陽光パネルの姿勢を上手く制御出来たとしても、姿勢制御系にトラブルがあるのならば、どれだけの機能が生きているのかによっては、着陸までこぎ着けられない可能性も十分にある。

<想像も付かない略称>

この衛星なんでおもてなしという名称なのかと調べたら、Outstanding MOon exploration TEchnologies demonstrated by NAno Semi-Hard Impactor(ナノセミハードインパクターによる月探査技術立証)というのを「おもてなし」になるように、都合良く文字抽出したものだ。これ、日本人の殆どは、どう考えてもこれの略称だとは思い浮かばず、公募から選んだんじゃないのと思う名称だ。

これなら、OME-X(Outstanding Moon EXploration)とかの方が日本に限らず世界でも分かり易いと思われただろうに……後をハイフンXにすると未知や未到達のことなどに挑戦しているという意味にも繋がるため、こういうトラブル時でも何とかなるかも知れないと思いを巡らせる人も出てくるからだ。今回のこれ、タイトルにも書いたように、嫌なシャレになるわけで、縁起が悪く見えてしまう辺りが通称ネーミングセンスとして痛い。

意味を持たせるなら、一緒に打ち上げられた米国のLunar Infrared Imagingの略でLunIRのように分かり易くした方がよい。逆にそうならないなら、無理に日本的な名前にこじつける必要もない。単に頭文字を使った方がこういうプロジェクトでは意味がある。日本語にするなら、最初から衛星の実証機名称も日本語にしてしまえばよかったのに、月面着陸実証機とまんまを付けて、通称:月光とか、月面とでもすれば、そっちの方が、日本らしく評価されただろう。英語に何でもしたがる病気は何とかした方がよい。むしろ、日本語のままで第何世代実証機などと付けて、日本語が世界に広がるようにした方が、日本らしいのだ。中国はそういうのを本気でやっているから、恐ろしいのである。


ちなみに、記事にあるもう一つのEQUULEUSもEQUilibriUm Lunar-Earth point 6U Spacecraftの文字抽出である。辞書で調べたが……月と地球の均衡点という意味かな?頭にEquilibriumがあるので、ルナアースポイントの均衡ということかもしれない。

日本人というか日本人研究者は、こういう複雑な英語の羅列がお好きだが、これはもっと意味不明だ。
ちなみに、6U Spacecraft(Satellite)は搭載衛星のサイズ、重量が6U(Unit)サイズだということだ。打ち上げる小型衛星規格の最小が1Uとして、6Uサイズというものだ。この衛星だと下手に略称を使わずにEQ Lunaぐらいの名称かな?
そもそもEQUULEUSという名称が先に浮かんで、この名称が付いたのかな?上のおもてなしもとも思えてくるのが、なんだろうなと思うところである。


<名称の験担ぎと鬼門>

世界でも験担ぎのようなものはあるが、世界的にある程度共通している鬼門がある。

特に成功が求められる大きなプロジェクトの場合は、プロジェクトタイトルや開発名も気を使っていたり、験を担ぐことはしばしばある中で、略称や正式名で避けた方が良いのは、子どもが考えるスーパーウルトラなんちゃらかんちゃらという先にこんなかんじで必殺技を決めて、そこに動きを無理に当てはめるというプロジェクト略称であり、先に箱を決めて、そのあとに何かを当てはめる方式だ。

凄く凄く分かり易く言えば、GUNDAMというブランドのロボットをシリーズ毎にGeneralなんちゃらとか、GUNかんたらとか頭文字の意味合いを変えて使うような感じだ。この方法は、まあ有名コンテンツや前がある技術の延長線で成功しているシリーズを重ねるなら会社の意向の問題だが、新規の案件でやってしまうと、鬼門になる可能性を秘めている。これは、ある種の草理論(実証はされていないが、何となくそうなることが多いかもと思われる理論)でもある。だから何となく鬼門なのだ。

詳しく説明しよう。
先に作った名称に拘ると規則性がそこだけ抜けてしまうことがある訳で、他でも抜けてしまっている可能性があるからだ。
簡単に言えば、りんご(RINGO)という最終命名を決めたプロジェクトで、RINGOになるように英語とか日本語での理屈を連ねた技術は、結果的にリンゴという絶対法則が先にあるため、失敗したり大したものにならないということだ。要は、リンゴを曲げることが出来なくなる。リンゴの略称になるまで辞書とにらめっこする時間があるなら、リンゴにはならなくても、技術に力を注いだ方が良いし、欠点を探し出すことに力を入れた方が良いからだ。正直、開発名がProject Appleで最後にRINGOにしたいなと思っていても、それはぐっと堪えて、PEAR(なし)という技術や製品になってしまうなら、それで良いのだ。

これの匂いがするのが、この衛星群だなと思ったのである。
最近、日本の官庁の技術プロジェクトにはこういうの結構あるが……。


<優れていれば略称がなくても覚えられ
             簡単な名称なら覚えられるが……
                  覚えにくいなら分かり易い「通称」を付ける>

略称や呼称、通称は敢えて設けなくても、優れた物ならその名称が残ることはしばしばある。
H-IIBロケットなどは、特に呼称もない。HydrogenからとったHロケットが、第2世代になりその後2度の大型改良されたからIIBだ。
これをロケットだと知らない人は、多分日本ではかなり少ないはずだ。

むしろ、これが例えば、Liquid-Hydrogen Fuelled Carrier Rocket Type-IIBという名称で、LHFCRT-IIBという名称だったらどれほどの人がロケットと思うだろうか?きっと覚えられる人は少ないだろうし、ニュースを見ても映像と合わせて見ないと年に1度かそれ以下で打ち上げられるロケットだと覚えていない人も多いだろう。

そこで、そういう長い名称になるときに使われるのが通称や略称になる。
日本のRNSSであるQuasi-Zenith Satellite System(QZSS)がみちびきと呼ばれているのと同じだ。GPSの補強をする信号を出す衛星で略称は頭文字からQZSSで、みちびきだ。本来は、これが好ましい。


今回のこの記事の障害が、鬼門に導かれたから、結果的に1機は苦しい状況になったのかは分からないが、日本は特に官庁系のプロジェクトや大学系のプロジェクトで無理に英語で名称を付けて、最後に日本語にも出来るような、ピッキング名称を作ることが最近増えている。そして、そういうプロジェクトが結果的に微妙な雰囲気で(予算削減とかされて)終わっているものもいくつか知っている。

そういう格好良さげな箱やタイトルに拘るよりも、優れた内容を評価されて、覚えられたり、最終的に愛称が付くような成果になる努力をした方がよい。尚、覚えたいとその業界を志す人が考える格好いいプロジェクト名は、たいてい頭文字を使った意味のない文字列の羅列である。下手に頭文字を使わず間の文字を使って、ある言葉を表現してしまうと、むしろ中の略称が覚えにくくなり、一方で誰でも略称を覚えやすくなるため、志す人も無理に略称を覚えなくなり、一般の人はそもそも興味がないから覚えないということがしばしばある。



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