トヨタやNTTが出資 次世代半導体で新会社、国内生産へ …… 最先端なら投資規模は5年で5兆円は必要ですが……複数社の合弁は負けフラグです。

日経デジタル(日本経済新聞社)の記事である。


またこういうのが出てきた。これ、産業を知らない人は沸くのだが……関係者とか長期投資家は興味は持っていても冷める案件である。短期で上場するなら、日本応援の素人が買ってくれたのをうまうまと小銭でしゃぶる機関投資家の未来が見える。

こういうニュースが出ると、阿呆なジャーナリストとかが、これは良いこと的に花を添えることになるが……その専門家すらも、これを投資案件として見る目がないため、関係者のプレゼンを成功する体で見るという悲しい性がある。始まる前は、問題点のほうを中心に出して、実際に事業を開始する前に、目標や状態を補正しないといけないのだが……


<そもそも、次世代なのに言っていることは枯れている>

これは、主に新型ロジックの設計をするということなのか、それとも製造までするつもりなのかによって、話は変わるがどっちにしても、何年後にどれだけの成果を出し、上場して何兆円とか集めるぐらいのビジョンがあり、且つ主導する幹事企業がちゃんと存在するなら良いが……。今の日経の内容だと、10年後にはやっぱダメだったかと思われる事業になるだろう。

例えば、NEC SXのような新しいアーキテクチャを設計するだけなら、NECだけでも出来るだろう。金額的にも問題はない額であるが、今更それをするメリットは特にないので、NECもやっていないわけだ。ディープラーニング系は既にGPU系やDSP系のASIC半導体とOpenCLなどのAPIアルゴリズムが確立されているため、今更新設計する話でもなくなっている。やるなら、もう10年ぐらい前にやるべきだった。

ちなみに、CPUやASIC半導体でARMなどのプロセッサーライセンスを得て省エネルギーにするという目標なら、ありだ。但し、それにはノード側(製造側)の最適化が必要であり、最先端は桁外れに高い。研究ラインでも高い。

半導体製造を含めた試作パイロットラインと量産ラインの開発を進めるなら、官民で1000億に満たないと思われる額では、先端に追いつくのは困難だろう。日本は半導体製造装置の事業者があるので、そこから無償でラインの提供を受けるとしても、研究用の年費だけで安く見積もって1000億ぐらい飛ぶ恐れがある訳で、それを銀行から借りてやるとしても、3年ぐらいで成果を出し、5年以内に量産にこぎ着けないと、債務超過になる懸念がある。

即ち、アーキテクチャならそもそも今更AIなら枯れている。一方で、半導体製造なら資本が1000億円ぐらいとして、その何倍を借りて、いつまでにどんな成功を目指すのかも分からない上に、資本を元に借入をしてまで作るなら、短期間でそれが出来るのかという問題があり、その目的地までの道がなく枯れている。


<政府が出資してくれる複数社合弁は負けフラグどころか衰退フラグ>

もっと言えば、合弁企業は政府の主導でやっているのか、民間主導なのか分からないが絶対に止めた方がよい。
日本のハイテク産業が合弁を繰り返してどれほど弱ったか分かっていないのではないだろうか?日本における合弁出資の欠点は、目指している目標に対して、金を出すはずの親会社の出資額が桁外れに少なくなるくせに、その親会社が子会社のやることを承認しにくい事にある。そして、よほど求める額がデカくなると、親はこんなはずじゃなかったと事業を手放す傾向もある。
特に、1社2社ではなく、数社合流型の合弁で、且つ政府が担保する事業は、少なくもこの20年で日本ではこれまで成功したケースがほとんどないはずだ。

何故なら、旗振り(お金を実際に大量出資する存在)が不在で、多分、合弁を検討する段階でのコスト見積もりが甘く、さらに他社の成長を軽く見積もりすぎているからだ。もしかしたら安い額で上手く行くかも知れないと思い、上層部がとりあえず国も言っているし、じゃあ金をちょっと出してみようかと出して、数年後にあんまり上手く行かないな、じゃあ撤退でとなるのが、日本のこの手の事業だ。

その際に最悪なのが、その研究をしていた各社の研究員がそっちに出向したまま、転籍し……その後、会社が資金繰りに喘ぎ傾くことになる。そうすると、そういう優秀な研究者や現場の人材は、日本以外の企業にヘッドハントされる。日本企業に戻るのではと思うだろう。戻らない人も多いのだ。何故なら、先端が集まって出来た事業が失敗したら、日本にその事業はないからだ。

そうやって、流出した事業は、過去の半導体、有機EL、無機EL、ロボティクス、環境発電、モーター、ゲーミングやオフィスソフトウェア、最近はアニメーションなどもありそうだ。


だから、次世代で合弁結集という言葉ほどヤバい響きはない。


<報道を見る限りで見ると今回もダメ
   ~コストが掛かる次世代なのに少量多品種って~>

少なくとも本気でそれをやるつもりなら、折半でやるのではなく、どこかの企業が幹事となって他の会社や政府より出資比率を高くすることだ。そして、その会社が必要とするレベルの製造目標を定めて、確実にその製品だけはものにさせることである。これ、朝の経済ニュースを見てすぐに思った事だが、少量多品種という言葉……それ間違いなく最先端でやるなら負ける。最先端で求められるのは、歩留まりが悪くなるし、開発コストが高くなるので、大量少品種で歩留まりに合わせたバリエーション(同じ製品の廉価版と上位版)で量産するのが一般的だ。まあ、次世代ではなく、現世代で最高峰か、一個前ぐらいなら別にそれでも良いが……。

まあ、国と話し合って、出来るというラインがこれだったのかもしれない。こんな中途半端な金を企業と出し合うのであれば、まだソニーとTSMCの合弁会社に、追加で投資しこういう研究事業を担って貰うか、ソニーとTSMCにも僅かでも出資して貰って、研究ラインをそこに導入して貰うぐらいなら、この8社合弁でもいけるかもしれない。


<成功投資の本質は有数の企業が集まることではなく
     それの投資規模と役員(社長など)や親会社がライバルの実態を考えて
                          将来性を述べているかどうかである>

日本では投資教育が始まるとか始まったとか言っているが、その投資教育の中身すら、こういう掛けるコストや時間に対するペイ(支払い、リターン)と、同業他社がある場合に、その他社が持つ開発投資や技術力の蓄積の差を見ずに、大きければ良いとか、きっと儲かりそうなブランド、これまでの実績とか、そういう目線で教える可能性が高そうだなとこういう記事を見ると思う。

実際に、日本投資はファンド型が多く、直接投資している人は少ない。

投資は本来、他を凌駕できるだけの熱意があるのか、それがちゃんとトップ言葉や行動に表れているかによって示される。行動とはお金だったり、毎年更新される技術だったりで示される。言葉は、その技術を如何に画期的に見せ続けることが出来るかで決まる。赤字でも投資が集まるのは、そういう話術が上にあるからだ。
そのため、投資教育などで求められるのは、学者だったり、証券会社の営業がいう商品トークではなく、当該事業のライバルと比べて、リード出来るだけのパワーがあるとか、新産業に参入するなら、誰が旗を振り、その旗を振る人が最初にどういう発言をするかだ。

<国も金を出すならまず問題点から報道するべき>

まあ、あくまでこれは草案のようなので、実際にはこれからこの辺りが綺麗に纏まって、設立の時にどうなっているのかだが……その時にも、今のこの内容だと間違いなく10年後にはそんなプロジェクトあったねと言われて、初期出資をしたメーカーすらも殆どこのメーカーから商品を買わない会社になっているだろう。

半導体に限ったことではないが、合弁でしかも政府も関わっていそうな内容なら、まず半導体産業の現実を見て、金額と旗振り役と、先端なら先端らしい発言をしてくれないとダメだ。そして、報道機関も、ちゃんとそういう専門家にこれの問題点の方を出来る前に説明させ、始まる前に、問題点を整理しておく必要がある。
昔はそういうのをちゃんと報道がしていたから、90年代ぐらいまでは政府系の出資があるプロジェクトでもある程度成功した事業もあった。しかし、21世紀に入ってからは、先に政府が出資するような大きな事業が、産業の発展に貢献する前提で記事が書かれることが増えた。要は、最初から成功するならば……なのだ。しかし、企業が自分でそれを選択するだけならともかく、国がお金を入れると言うことは、失敗してはいけない事業なのだ。その場合は、始まる前に、ちゃんと問題点を報道や社会が認識し、是正(改善)させないと結果的に、大きな失敗や人員の流出を生じることになる。

結局、税も人も投入してみんな海外に出て行くことになる可能性もあるのだ。これまでは実際にそうだったのだから……。
だからこそ、そういう問題点を、整理することが重要である。逆に言えば、これを単純に画期的とか、素晴らしいとか、成功するはずという視点で見ている人が多い国は、滅びかねないと言うことだ。それは、そもそも半導体産業の現実も知らないし、中身がこの程度しか示されていない中で、借入や市場投資も受けずにもしこの事業を実現するなら、まずリーディングカンパニーになることは不可能だからだ。

下手すれば、この合弁会社数社の日なた(会社の本業)ではないが優秀な研究員と政府系天下り等を体よく分離して外資を太らせて終わる会社になる。

というか、政府も金を出すならソニーとTSMCの合弁工場に金出すなら、そっちを強化するとか、ルネサスエレクトロニクスを親にするなら政府も出資するという形にして、少なくとも主力の半導体工場を今持っている企業が、最終引き受け出来る形しておかないと、子どもの人口が急速減る日本で、次に失敗したら穴は埋められないだろう。

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