Cortex-X3コアやレイトレ対応の高性能スマホ向けプロセッサ「Dimensity 9200」…… 9000が出なかった時点で普及はまだ難しい。

PC Watchの記事である。


Dimensity 9000/9000+は昨年から今年にかけてのラボテストの評価は高かったが、実機が投入されたのは中国メーカーなどでしかも大量には出荷されなかった。一部のメーカーは検討までには至ったようだが、Image Signal Process関連のSDKチューニングが難しい問題や、価格と発熱の優位性は確かにあったのだが、如何せん出荷されているSoCの数量が足りないという点もあり、普及しなかったようだ。

そして、来年に向けて9200が登場する訳だが、今回はRGBWの4色センサー対応まで行ってISPのてこ入れをしたり、前世代では9000MP相当の処理能力を謳っていたが、それを止めて320MPのメインカム処理を上限とし、8K対応をさせるなど、ISP実用演算の売り込みに転じたようだ。

それから、欠点だったLMDS帯域(ミリ波・mmWave)にも対応している。

尚、GPUは前の9000ではRay Tracingの暫定対応(Vulkan利用時で且つ、MediaTekのSDK利用時に一部のRayをハードウェアで演算出来る)を果たしていたが、今回は正式なハードウェア対応となった。まあ、これはARMの領分(Immortalis-G715が元々Rayに対応している)である。
ついでに言えば、UFS4対応や、IEEE802.11be(Wi-Fi 7)のD1.0-D2.0(draft)に対応し、BT5.4にも対応している。


<来年乗り換える企業はあるか?>

では、来年この9200に乗り換える企業があるのだろうか?というと、現状では厳しいだろう。
理由の一つは、Snapdragon 8 Gen 2が発熱問題にスマホメーカーからのコミット(確約)を得た対策を打っているからだ。次の8G2では、標準版とPlus版とは別にSnapdragon 820に存在したクロックを抑えたLite版に相当するものが出るという噂があり、標準版でも8Gen1より低発熱に抑えられる見通しである。

これが出てくるなら、よほど価格的な優位がなければDimensityを選ぶ理由は下がってくる。

それからもう一つは、そもそもスマートフォンが売れないのにTSMCの製造単価は上がっているというのも影響している。そのため、Dimensity 9000シリーズの価格が思ったより下がらないのだ。そこに、中国でのロックダウンが長引いて不景気になっていることもある。中国市場である程度シェアが取れれば、アプリケーション開発やチューニングが進むことで他の国でも普及が進むだろうが、それが上手く回らないのだ。
これは、MediaTekも予想していなかった事態だろう。

だから、来年も大きくシェアを取ることは出来ないだろうと考えられる。ただ、Snapdragon 1本で行くと熱問題などが生じたら、上手く売れなくなる事を考えて、今後はSoCをMediaTekとQualcommで段階的に2系統に分ける企業は出てくるだろう。出荷量が少ないソニーとかシャープには困難だろうが……。


まあ、PC向けのプロセッサとは違って、組込のSoCは自作市場がない。そのため、メーカーが採用してくれないと普及しないという欠点がある。それ故に、性能は大事だが、それだけではなく開発における保守とかサポートとかも大事になるだろう。ちなみに、爆発的に普及させる方法は1つだけある。

それは、AmazonがFire HDにLTEモデルを加えて、SoCにこれを載せることだろう。3万円ぐらいで出荷出来れば、それなりに売れる可能性は高い。問題は、FireOS対応のAmazonストアでこれだけの性能を生かせるアプリケーションがないことと、3万だと多分原価割れするだろうということ。後は、Dimensity 9000シリーズとしては世界的に凄く売れるかも知れないが、AmazonのFireシリーズとしては、高すぎて思ったより売れない可能性が高く、商業的には上手く行かないと思われることだろう。

ただ、それで最適化されたソフトウェアなどが生み出されていけば、そこからスマホなどへの採用が増えるかも知れない。これを物価高の今やると、投資家からそっぽ向かれるだろうが……。













これは、次のSnapdragon 8 Gen 2も対応が予定されている部分である。

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