TDPが上がった第12世代Core HXは、ノートPCの新しいデザインポイントを実現する…… 厳しい状況は今後も続く。
PC Watchの記事である。
Alder Lakeも本来なら半年~2年ぐらい前に出るはずだったアーキテクチャと思われるので、かなりお熱い品になってしまったが、ここまで無理をしなければ、低消費電力で高性能だっただろうことが覗える程度であることは分かっている。ただ、遅らせ続けたことの代償として、クロックも無理に上げていることがベンチマークなどで見て取れ、それがTDPを上げる結果になった。
今回のHXもまたそれが災いしている製品だが、この発表から見て取れるのは、Intelにとって狙っている層が、大多数の一般消費者や企業よりもコアゲーマーなどのビジュアル層に向いていることを示している。ゲーマーが第一義で次がクリエーターになっているからだ。ここから見えることは2つ、可能性があることを含めると3つだろう。
1つは、既にクリエーターよりも、ゲーマーの方がこういう製品に関心を持っていると言うこと。逆に言えば、クリエーターでさえも流石に消費電力が大きすぎると思い始めている可能性を示している。
2つ目は、ゲーマーが消費電力などにはあまり頓着せず、買ってくれるようになったことを示している。昔はPS4やXboxなどのコンソール製品に目を向けていたゲーマーがPCに移ってきていることを示しており、即ち今やこのクラスはゲーマー専用であり、ベンチマーカーやクリエーターの比率が下がってきていることを示す。
3つ目は、x86/64がクリエーターの心を少しずつだが掴めなくなってきている可能性があることだ。
これは、他の記事でも書いた以下の例がその1つでもある。
動画などの編集にWindowsではなくM1 Macを選ぶという流れだ。まだ、動画や音声を除くコンピュータグラフィックなどの一般ビジュアルワークは、windowsの方が圧倒的に多いが、流石にNVIDIAやAMDのGPUとIntelやAMDのCPUをセットにして演算させると、Macの5-10倍に匹敵するようになった消費電力の大きさは、いわゆるSDGsと燃料物価の高値(3月~4月の始めよりは下がっている)が終わらない今、企業でも課題になり始めている。性能が高いと作業も短くなりコストが下がるはずだが、作業時間を通常1.5時間のところ1時間に短縮するために、最大電力で2倍の電力になる製品を使うのは電気代が1.8倍になっている国では割に合わない。
そういう財務計算が始まっている訳である。
そこに対して、売り込みが難しくなってしまったというのが今のIntelの現状であり、だからこそデザインポイントをという言葉を使って新しい枠のように見せるしか無くなっているのだろう。そして、そこに対して最も好意的に示してくれそうなのは、ゲーマーということになる。
そういうことなんだろうという気がする。実際に、xboxのお陰もあってWindowsではAAAタイトルのゲームの方が新しいタイトルは増えており、逆に業務系のソフトウェアやフリーソフト系は高齢化が進み減少してきている。ツールやアクセサリー系のソフトはWindowsがセキュリティ問題などを理由に切り捨てに動いていることもあり、駆逐されつつある。
その状況では、OSのプラットフォームとしても一番ゲーマーが買い手になる。ちなみに、AMDでも同様の傾向に向かっているように見える。
<今後も厳しい電力枠>
尚、今後も低電力へとシフトするのは厳しいとみられる。
単純にプロセス技術が既に革新されていくプロセッサー技術に対して、追いつかなくなってきているからだ。
これは、Armでもx86-64でも、Powerでも見られる傾向である。さらに新たな問題として製造に掛かる欠陥率という歩留まり問題もここに来て見え始めており、TSMCは3nm(旧Intel 5nm相当)でのGAA-FET採用を見送り、ノードの技術を緩めて、3nmの製造を優先し、2nmで採用するらしいと伝えられており、これで何とか目標の日取りで量産出来る目処が立ったと言われている。
あくまで噂なので、実際にどうなのかは分からないが、今一番上手く行っているTSMCですらも今後も綱渡りが続く状況である。そして、Intelは10nm(Intel 7)に居る訳で、もっと厳しくなっていく可能性が十分にある。
今後この消費電力を一定の枠で安定させるには、性能を上げることよりも、性能を一定に保つこと。そして、クロック周波数を上げるのではなく、むしろ下げることが求められるようになるだろう。その代わり、並列度を上げること(コア数を増やす)と目的別のアクセラレータの実装を進めるしかない。
AppleはIntelから離れてそれを開始し、電力の上昇を大きく抑え込んだが、IntelやAMDがそういう方向にシフトすることが出来なければ、徐々にシェアを落として行くだろう。今でもx86系のシェアは徐々に下がってきている。サーバーとAppleがArmベースに置き換わってきているからだ。
今は、まだゲーマーだとかデザインポイントと言ってごまかせるが、AMDも次の製品でIntelと同じようにTDP枠を広げてくるという噂もある中で、x64市場が電力枠を緩めることで性能を上げる流れを維持し続け、電気代が今のまま高止まりを続けるならば、離れ始める人が増えてくるかも知れない。
世界の状況は変化していくため、そのうちにこれが当たり前になることも有り得るが、そうならない可能性の方が今は高い。
IntelやAMDは平均電力ではそうでもないからと最大消費電力を上げ続けて性能を高め続けるなら、そのうちにゲーマーでさえも、目をそらす時代が来るかも知れないことをIntelは考えて開発体制をシフトしていく必要があるのは間違いないだろう。

【Amazon.co.jp限定】 AMD Ryzen 7 5700X, without cooler 3.4GHz 8コア / 16スレッド 36MB 65W 正規代理店品 100-100000926WOF/EW-1Y