正式に発表されたMediaTek Dimensity 9000(MT6983)とSnapdragon8 Gen 1(SM8450)比較表。

Dimensity 9000(MT6983)が正式発表された。
実際には、既にMediaTekも、他の発表や非公式で製品をちらつかさせていた製品だが、省エネルギーで高性能を売りにする製品となっている。
しかも、既にいくつかの主要なスマホ製造メーカーが製品を採用することを決定しており、性能の良さもES(engineering Sample)の段階でかなりよい形で出回っている。

尚、チップセット全体の価格もSDM8450(Snapdragon 8 Gen 1)よりMT6983(Dimensity 9000)の方が若干安いらしいというのも理由だろう。ではスペックとしてどこが違うのかというのは重要になってくる。それについての仕様表を作ったので公開する。

Snapdragon 8g1vsDimensity_9000.png

Snapdragon 8 Gen 1と比べてはっきり分かるのは、データシート上のスペックでは拮抗どころか上回っている部分も多く見受けられるという点だ。ただ、SoCではそれぞれの連動を制御するドライバーとは別のファームウェア(規模はシステムによるがISPやAIも含めると昔に比べて結構大きくなる)が別途存在し、その出来にも左右される。そのため、数字が上回っているからそれ相応にとは行かない。あまりファームの影響を受けないCPUの性能ぐらいは超えるかも知れないが、GPU等は今のところ追い抜いたという話はない。

具体的に差を見ると,GPUは同じコア構成でクロックは上回っている。そのため、ESにおけるベンチマークでもCPUだと同等以上になっているようだ。GPUやAIなどはSnapdragonに一日の長があるが、888に比べるとリード出来る場合もあるようだ。それで、バッテリーの消費や発熱は888と同等かそれ以下になる見込みとも言われる。これは、TSMCのノードがSamsungノードより優れているからである。

まあ、ゲート長とか見るとSamsungは5nmにしても6nmにしても本当にそれはその数字で良いのかというレベルだから、TSMCが明らかに抜いているのは間違いなく、それが電力性能にも出ているのだろう。これはQualcommの誤算だったと言え、逆に言えばQualcommがTSMCをそのまま選んでいたらDimensity 9000で追いつかれることもなかったのかもしれない。

GPU面では、Mali-G710を採用しているため、raytracingアプリケーションの開発がサポートされた。即ち、これでraytracingが使えるようになるということだ。ただ、FP性能が凄い高い訳ではないため、まだ主力として使われるまでには至らないだろう。あくまで、開発段階で試すぐらいなら良いのではないかな?程度と考えられる。

尚GPU機能はほぼ一緒だが、Elite Gamingに相当するドライバーアップデート(ゲーミング最適化のための設定情報の提供)のGoogle Playによる提供が出来るのかは確認出来なかった。この辺りは、Snapdragonが未だリードしている。GPU性能は熱などの問題がSDM8450にはあると噂されているが、SDM8450の方がES評価では上回っている。


商用ネットワーク機能(4G/5Gの通信)は、mmWave(C-band&LMDSのミリ波)にSnapdragonは対応しているが、Dimensityは対応していないことが大きな差になる。また、アンテナの性能差もあるのだろう若干速度は遅い。まあ、これほどの速度を1台の端末で出すことはほぼないだろうから、最強はSnapdragonだが、Dimensity 9000で足りない人はいない訳で、これがコストダウンや電力面での優位になっているなら、選択としてはDimensity 9000の方が好ましい。

Wi-Fiも同様だ。同じ無線で違うのは、Bluetoothの世代が5.2と5.3という点だろう。Dimensity 9000は5.3に正式対応している。
ユーザーライクな狙い目をちゃんと選んでいるのかもしれない。まあ、これもあまり差はないが……。

GNSS/RNSSはほぼ互角だ。強いて言えばBeidouがB1C対応している辺りが、MediaTekのリードになっている可能性がある。
Qualcommは最新でもB2aまでだと思うので、違うと言えば違うだろう。これは台湾メーカーで中国向けの出荷も多いことが寄与していると思われる。日本はQZSS(みちびき)の方が重要なのであまり関係ないだろう。

USBの世代はそう変わらないだろう。
Camera ISPは画素数や処理の大きさで見るとImagiq 790を搭載するMediaTekの方が一見上回っている。大きな差があるのは、AV1のハードウェア再生をサポートしている点が、Imagiqの強みとなっている点だろう。Qualcommもハードでのサポートをこれから追加する可能性はあるが、発表時点でサポートを発表しているのは、MediaTekの強みとなる。一方で、演算全体として優れているかと言われると、プロセッサーを設計する会社から供給されるSDKの機能に死角がないのはSpectreの方だろう。これは8KからDolbyVisionまでありとあらゆるものに対応出来るSDKが供給されているため、出来ないことはほぼない。

MediaTekは一部自社設計もあるが基本は、ArmのMali seriesとの親和性を重視しているので、Qualcommのように独自のエコシステムを強力に持っているわけではないのが性能や機能面では弱い点になる。ただ、MaliはArmによる開発なのでより幅広いメーカーが採用できるオープンに近い仕様である分、ハイエンドの利用が増えるとクローズドなQualcommを脅かすだろう。これまではミドルレンジまでが多かったので、これから一気に市場が変わるかも知れない。

DSPやAPU/NPU/NPEははっきりしないが、どちらも前作の4倍の性能になった。この辺りもまだQualcommがリードしているだろう。

Audioに関しては、Aqsticブランドを採用し、アンプも世代交代させているQualcommの熱意が凄い。逆に、MediaTekは無線の部分でLEオーディオ(BT5.3の関係だと思われる)を謳っており、イヤホン端子レスの製品を前提に考えているのかも知れない。

セキュリティ機能をQualcommが専用で設計しているのは、PCや端末ベースボードをスマホ以外にも向けているためだ。
これはストレージコントローラーにM.2があることからも、主役はスマホでもその先のPCなどへの派生を狙って設計していることが分かる。拡張性というか機能性はQualcommの方が凄い。

ただ、スマホとして見た時にすぐに必要なのかという点では、最強かも知れないが、コストなどを考えた時に最適とは限らないという見方をされてしまうという状況にある。まあ、先にも書いたがこれは先端プロセスの製品をSamsungノードに変更したことによる失敗だったというべきだろう。TSMC N4を使っていれば、Dimensity 9000と同じクロックでも戦えた可能性が十分にあり、消費電力や発熱も抑えられた可能性は高い。そこが、誤算だったと見てよいだろう。

この手の問題は、NADIAにも出ており、今や先端を進んでいるのは完全にTSMC一社のみとなっている。IntelはEULVすらスタートできずSamsungに負けているし……。半導体価格が全体的に上がったのは確かに、コロナが原因だが、最先端の半導体についてはTSMCと同格がもう一社生まれないと厳しい状況が続くだろう。

ちなみに、そのTSMCの次世代ノードはAppleが独占する見込みで、AMDもSamsungに移るのではと言われているが……既にインテルもノードナンバーをプロセスから外した今、数字が小さい事=省電力や微細化ではないことをfoundryに委託するメーカーが理解しないと、この過ちが繰り返されるだろう。多少遅れてもしっかりしたノードで出すことが大事なのだ。これからはSDGsなど電力性能が求められるのだから。

話を戻そう。
Dimensity 9000は主要な部分は十分に満たしているので、ハイエンド使いの人にとっても不満が生じる事は殆どないと思われる。
Snapdragon 8 Gen 1の方が優れた点があるとすれば、細かなソフトウェア対応のサポート面とミリ波の通信や、ステレオミニを使ったオーディオ面の差だろうと思われる。

そういう部分の重要性が低いなら9000は素晴らしいだろう。後は実売の単価としての差がどれだけあるかだ。Dimensity 9000はロット単価がSnapdragonより安価だとされるため、差が大きい場合はSnapdragonはかなり苦戦するかも知れない。ただ、現時点ではDimensity 9000を使う日本のブランドは予定されておらず、主に中国韓国アジアのメーカーなどが採用予定である。そういう点で、日本のメーカーブランドを好む人の選択肢になるような製品が来年早々に出る可能性は、極秘に開発でもしていない限り低いだろう。ソニーがXperia 10の後継辺りに採用して6万~7万円ぐらいのお値段なら、世界でバカ売れする……という夢のような話も絶対にないとは言わない。




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