富士フイルム、4K/8Kの長期保管も想定した45TBの磁気テープ …… そろそろこの媒体も容量の割に……
AV Watchの記事である。何故AV Watchの記事なのかは分からないというか、そもそも、この記事を書いている人は、LTOが何か分かっているのかすら疑問ではある。まあ、FUJIFILMからすれば映像もという触れ込みにしたいのだろうが……ソニーやパナがAD(archivale Disc)を売り込んでいる中では難しいだろう。
LTO(Linear Tape Open)は、主にミッションクリティカルサーバーのコールドアーカイブ向けに使われるバックアップデバイスである。
コールドアーカイブというのは、ランダムアクセスを必要としない最終出力保存が目的のアーカイブである。戻す必要があるときだけ戻すというものであり、LTOの場合は、6~7連装のLTOチェンジャーを用いて日々の差分を取っていくパターンと、1スロットのドライブで月に1度とか決まったサイクルで丸ごとバックアップするパターンで使われ、これでの定常バックアップにはテープバックアップ対応のソフトウェアが必要である。(最新のWindowsであればOS標準でアクセス<読み書き>が出来ない訳では無いが、サイクル設定は出来ないはず)
ただ、初代から6代目ぐらいまではある程度使われていて、今でも利用されているケースが多いが、6を超えたシステムの導入は多分減少しているはずだ。理由は、正直LTOが必要なほどのストレージを持っている事業者が少ないことと取り回しが面倒だから、そして媒体が高いのも理由に挙げられる。これだけの容量を保存できるストレージは主に、RAID5/6構成のディスクアレイユニットになるため、装置はミッションクリティカルで24時間/365日(実際は年に1度か、2度定期点検による停止をするのが一般的)稼働している。
万が一ストレージの一部やホストのどこかに問題があれば、それが基幹でなければ活性の状態で部品交換することも出来るため、LTOへのアーカイブを取ることがなくなってきているのだ。もっと言えば、LTOの書き込み速度が上がっても、それ以上に容量が増えているテープと、ストレージ側の速度を考えると1回のフルバックアップに掛かる時間が何日という単位になることも嫌気される。
要は、もしも45TBの全てを書き込む場合、45TB書き込みが終わるまでに数日かかることもあるため、そのバックアップが意味を成さないということになるのである。もちろん、ディスクにデッドロックを掛けて全領域のバックアップが終わるまで読み書き禁止にすれば別だが……。
さらに、減価償却期間を想定してストレージの容量を組んでいるため、容量不足なども起きないため、大容量へのリプレースは思った程、行われないのである。もし、LTOがコールドバックアップに必要な環境があっても、LTO3~6ぐらいでシステムとどうしても必要とするデータだけ定期的にバックアップするだけで足りるのだ。
ちなみに、これ個人用のドライブが出る見込みはない。そもそも5インチベイよりドライブがデカくなるし、実は高密度故にローラー等の定期清掃が必要で、結構保守管理が面倒くさい。さらに、初めて触る人には楽しいかも知れないが、正直、目的のデータを単体で取り出すにはシークに時間が掛かりすぎるのに商品のお値段が高い。まだ、DDS(Digital Data storage/Digital Audio Tapeのデータ版)では容量が少ないので、CCT(コンパクトカセットテープ)~DVT(デジタルビデオテープ)に近いサイズでLTOの技術を組み込んだ一般向けのコールドアーカイブ(miniLTO)でも開発した方が稼げるだろう。LTO-12の技術を使って10TB~20TBでも一巻に記録出来れば、それなりに売れるだろうし……
家庭用なら、使う当人がある程度限定されていて、容量も急激に増えているので短期的な需要はあると思われる。
ただ、そういう開発が行われないのは、需要の見通しがはっきりしないことと、テープの家庭でのイメージがアナログ時代のまま続いていること。HDDやSSDの進化がこれからどこまで進むのか分からないからというのがあると思われる。何より、データが蒸発する恐れがあるもののSDカードでも1TBを超える時代に、磁気テープであるこれの方が長期保存ですと断言は出来ないこと。(家庭だと磁石などが地殻にある場所に保管されているケースもある。何せ戸棚のキャビネットなどが観音開きならほぼ確実に磁石式である)
さらに、家庭や個人用だと1度バックアップしたら次にその容量まで溜まるのに、何年もかかるため、媒体は期待した程売れないというのがある。
だから未だにサーバー向けとなり、映像用に向いているよとかなる訳だ。
しかし、すぐに読み出しが出来ないテープでは、使うか使わないかの取捨選択しなければならず……。かといって、データも含めたシステム全体のフルバックアップや差分に使うには、1時間や2時間でバックアップが完了するスピードではない。
バックアップの意味って何だっけと言うことになる。
なかなか大容量のLTOにコールドデータを入れて保管しようとは思わないし、活性状態のバックアップには不向きという中途半端な容量の媒体になっているのだ。
特に、使うかも知れないけど、今は使わないなら、少なくとも組織の場合は、ゴミかもしれないTemp領域に数ヶ月とかとっておいてその後は消去するのが一般的である。それが例え映像でも……もし必要なら、必要とする人が定期的にアクセスするように求めるか、使わないといつ頃には消えますよと警告して、必要なら自分でバックアップを取るように求めるのが普通だ。
そう考えると、個人や家庭向けの媒体を模索することも本当に考えた方が良いと私は思うが……。ネックは容量が大きいことが結果的に、媒体の交換サイクルを落としていることである。サーバですら上記のような状況である。だから家庭でも導入されるほど低廉な価格で売り出すと、元が取れない恐れが強く、市場に出て来ないという今の状況がそういうことかと分かる訳だ。
もう少し、ストレージ全体が小容量の時に家庭用にもminiLTOのようなコンパクトで低廉な装置でも開発して出していれば、今、業務より家庭でそこそこの容量が普及している可能性はあっただろうが、今サーバー市場に入れているLTOの容量と、HDDやSSDの容量、SDカードなどのリムーバブル媒体の容量を考えると、テープメディアが個人向けで踏み込んで成功するのは無理だろう。1度か2度こういう記事を書いたが、まだあの頃ならもう少し可能性があったと思うが……今となっては厳しいと言える。
即ち、LTOも容量を追求していく、今の姿のままでは厳しいということだ。
例えば、NANDフラッシュと組み合わせて、少なくともindexing DataだけでもNANDに保存し、欲しいデータへのジャンプを高速化するとか、そういう手でも打てば、もうちょっと変わるかも知れないし、いっそ、装置をもっと小型で軽量化して、ビデオ編集機メーカーと共同でハードを作るとかすれば、普及する可能性はあるだろう。映像コンテンツにラベルを貼って、保管しておくというのは今でも、やっている放送局はあるのだから。
ただ、その場合は45TBよりも、一巻き120分の8Kとかでも良い訳である。その代わり、現在MPEGなどで行っている圧縮を一切掛けずに保存できるとかにすることで、優位性を見せられるだろう。