Snapdragon 875は歩留まりが悪いか良いか……12月の発表で分かる。
再来月にはQualcommからフラッグシップ新型SoCが発表される。800番代のSnapdragonである。
開発名はLahainaと呼ばれていたそのSoCは、
これまでの製品型番の流れで言えば、チップセットモデルナンバー:SM8350でSnapdragon 875と呼ばれる予定である。
ベースバンドモデムにはQualcomm (Snapdragon) X60 5G/X24 Modem-RFを搭載できるようになり、少なくともX55かX60のどちらかに相当する5Gサブセット不要の一体モデルになると思われる。後は、Snapdragon 865+でオプション採用されたQualcomm FastConnect 6900 Subsystemが標準搭載されると思われ、BT5.2が標準になる。
尚、X55とX60は最大速度差はほぼない。平均的な速度は上がるかもしれないが、主にコントローラーの電力性能の向上、後は地域別で異なるRFの対応周波数拡張などに力を注いでいると思われる。もしかすると、Triple SIMサポートなどを正式に追加するかもしれないが、日本ではDual SIMさえもキャリアが採用しないので、日本ではほぼ関係ない。
CPU部は、Cortex-X1がPrimeコアとして搭載されるだろうと専ら話題である。これが、1コアとなり残りは、
3コアのA78(Big)、4コアのA55(Little)が搭載されるのでは無いかという訳だ。まあ、既にゲーマーでもスマホのCPU部に興味を持つ人は殆どいないだろう。
スマホにそこまで求める意味はどう考えても既にない。タブレットならアプリさえあれば映像作成(CG作成)などでまだ使い途もあるかもしれないが、基本的に、ベンチマーカー以外でここに興味を持つ輩はいない。
GPU部は、不明だ。そろそろAdrenoがRaytracing対応の700世代になってもおかしくはないが、過去のSnapdragonを踏襲するなら、Adrenoのメジャー更新はSnapdragon 600/700世代で先に投入してから行うことが多かったからだ。今年は875と同時に775も投入する見込みなので、この2つの製品は700世代に変わるかもしれない。700世代に変わる場合は、Raytracingをハードウェアサポートするだろう。(現在ソフトウェアでの対応は可能である)
DSP部は、機械学習をX1CPUやAdrenoと合わせて最適化し強化するはずだが、将来的には機能を縮小するかもしれない。SnapdragonではHexagon DSPが年々肥大していた。これは、GPUとCPUの間を取り持つ形を取っていたからだと考えられる。しかし、それがファームウェアベースのランタイムプログラムも肥大させ、今年に入ってプラットフォームベースの大きな脆弱性に繋がっていたことが分かった。発覚したのが既に設計を完了した後のはずなので、今年は変更してこないだろうが、再来年までにはここの構造に手を入れてきそうだ。
メモリーコントローラーはLPDDR5オンリーに変更されるだろう。GPU性能を求めるとこれが必須になるからだ。
そしてストレージバスはUFS3.1 L2(速度の変更はない)へと更新されると思われる。
<問題は歩留まり>
上記が変更点となる部分だ。あくまで、噂と推測なので実際に発表されないと事実かは分からないが、概ね予想を極端に超えるものではないだろう。
既に、スマートフォンも成熟し、Arm ArchitectureやモバイルGPUも成熟しており、目新しいものは殆どないのも影響している。
そんな中で、大きな不安材料がある。
それは、Snapdragon 875の歩留まりが極端(過去最悪クラス)に悪いらしいという話だ。
今回Snapdragon 875はSamsungの製造ライン(EUVL-5nm)を使って製造されているのだが、この製造が芳しくないというのは、既に6月から7月頃には出ていた噂だった。そして、これも噂だが8月頃までにX60 5Gベースバンドチップ(外販用)を来年にもTSMCに再委託するという話まで出ていたほどだった。
現状ではそれが事実だった可能性が高い。stanfordartsreviewの9月の記事で書かれているが、性能30%アップで価格は5割増という衝撃的な記事がある。この手の記事は他のサイトでも出ている。通常前の製品群と同じブランドラインで5割も一気に価格が上がることはない。せいぜい1割~2割も上げるのが良いところだが、5割となると……製造上何かがあったとみるのが、妥当だ。半導体では1枚のウェハから製造する数量が価格を決めるため、欠陥率が高く使えない物が多いなら、価格は大きく上がる。それが起きてしまった可能性が高い。
エンジニアリングサンプル(ES)品の初期ベンチマークデータでは、性能も期待より低いという話があったが、これは最近は聞かれなくなったので、改善したのか……もしもチップセットの単価が上がっているなら、今後最上位製品の価格が以前より高くなるかもしれない。
という状況なのである。ここからがこの記事の本題なのだが……
<875と775の関係性が注目点>
ちなみに、875の仕様は既に上記したように概ね分かっており、それ以上だろうが以下だろうが、そんなに驚くことはないだろうと思われる。
だから、興味を持たない人も多いはずだ。
しかし、上記に従って考えると別の意味で興味を持つ人は増えるかもしれない。
GPUの項で書いたように今回775という製品も同時に発表するのではないかとされる。実際に、同時発表されるかは分からないが、もし同時発表されるなら、その仕様に注目すると良いだろう。もしかすると、775は875の姉妹品かもしれないからだ。
これが、もしも875と似たような構成で、クロックが低かったり、GPUの機能が縮減されている派生なら、たぶんこれは875には成れなかった下位選別品であると思われる。歩留まりの低さを改善するために、本来なら不良処分するべきものを、下位版の775という型番にして売ると言うことだ。私個人として思うのは、型番の番号も75は同じという点から、その可能性があると見ている。いや正しく書くと、
もしも、そうだとしたら、875で量産出来るのが775(当初ES-Sampleで試したもの)になり、Qualcommが目標としたものは少量しか作れず875になったということかもしれない。
そういう可能性があるのだ。その場合は、将来の半導体産業の発展にとっては、あまり良い話ではない。
<広がる高くなる高性能半導体と、そこそことの価格差>
高性能な先端プロセスの半導体は、今後さらに価格が上がるのは間違いないだろう。これまでもそうだが、これからはさらに上がるペースが増すかもしれない。日本からの調達影響もあるのだろうが、SamsungがTSMCに比べて一部で苦戦しているのは確かだと思われる。即ち、今のところTSMCが最先端のプロセスノードでは一強状態に躍り出ているのだから。
この一強というのは、TSMC側が価格を言い値で決められるという意味でもある。だから、nVIDIAやQualcommはSamsungに今回委託したのだが、期待を満たせない部分があり、一部をTSMCに戻すという話しも出ている。Qualcommは5nmを再びTSMCに戻しているとされる。
この流れを見ると、今後は最上位の価格が今より速いペースで上がる方向へと舵を切りそうだ。
逆に言えば、Intel 14nmのように最先端に届かないそこそこのプロセスゲートが、暫くは余る可能性がある。即ち、低価格との差が広がることになると思われる。
実際にこれが事実になるかは分からないが、これが現実だったなら、
半導体における電気信号を用いたプロセスノードの進化の終了は、この先猛烈なスピードでは行えなくなり、本当に僅かな期間しか残っていないだろうことと、誰でも先端プロセスの製品を以前の同じレンジで売っていた価格では買えなくなるかもしれない。
一応、この先にはフォトニクスを用いたスイッチなどを併用するハイブリッド型や光半導体を目指す未来もあるのだろうが、上限は近い。
それを心して、これまでと同じ進化ではなく、別の進化の手法が求められる時代になることを見据え、考え方を変えていかないと、時代に取り残されるかもしれない。
こうやって考えると、半導体に支えられて速度を上げてきた6Gとか、本当に出来るのか?と思うところではある。
今のソフトウェアやクラウドの技術もそうだが、日本は専門家の専門分野の範囲が昔より狭くなりすぎて、それを支えている技術のブレークスルーの限界などまで見極めてられていないような気もする。ビデオテクノロジーなどもそうだが、高度な符号化や分析速度の向上は、全て半導体プロセスノードがムーアの法則に従って微細化していくという前提に成り立っていることを、理解していないと、これからの世界のトレンドをまた見誤るかもしれない。
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