蒔いた種に苦しむIntel……移行出来ない10nmプロセスと広げすぎたラインナップ。

インテルプロセッサは先月の終わりから急速に在庫を減らし始めたようだ。元々、プロセッサは一定期間先行量産してから、販売開始されるため、販売開始後に数量不足に陥ることはないが、実は今のIntelには製造ラインの余裕がない。

そのため、過去には無い形で製造ラインを増設し強化することになった訳だ。たいていは、目的に合わせてラインを転換することはあるが、2年以上製造したラインに大きな投資をして製造量強化することは今回が初である。

一体何が起こっているのか?それについて書きたい。


<1つ目の原因はチップセット>

実は、これほどに逼迫した原因の1つは、チップセットの製造にある。Intelは現在出荷しているチップセットから、Cannonlake(10nm)への移行を始めるつもりだったため、チップセットは過去の慣例に合わせて、14nmに完全移行する予定だった。実際に一度は完全移行する形になったのだが、14nmでは既に、CPU、iGPU、NANDフラッシュ、モデム、SoC全般と殆どが22nmから移行していたため、生産ラインが足りなくなった。

そのため、急遽下位の集積度が低く動作クロックも抑えられた製品を既に製造が減っていた22nmに移すことになったというわけだ。また、一部のチップセットなどは外部のファウンドリーに一時的に回す措置まで執られ始めている。


<2つ目の原因は増やしすぎたCPUラインナップ>

さらに2つ目の原因として、Intelのプロセッサラインナップの異常な多さも原因に挙げられる。正直、今のIntelは過去最大クラスのプロセッサSKUが投入されている。AMDのGPU内蔵モデルから、2コア、4コア、6コア、8コア、12コア、16コア、18コアにいたる製品。さらに、iGPUのバリエーションやeDRAMの違いも加え、そこに旧Atom系とCore系の組み合わせも足すと、既に100種を超える。

しかも、その半数以上はIntelが昨年から今年投入したプロセッサであり、無理をしてまで世代交代をした製品でもある。それが、結果的に売れ筋になる製品を大量に生産し在庫を積み増すというAMDスタイルの販売方法を採れなくしてしまい、結果的に在庫が足りなくなるという状況を生んだ。


<3つ目は新型プロセッサの大型化、多コア化>


そして、今まさに在庫が減っている最大の理由は、これから販売が本格化する新型プロセッサにある。いや、厳密にはこれまでの流れも含めてAMDに対して無茶な対抗をしすぎた結果の成れの果てというべきかもしれない。
Intelは8コアのCoffeelakeを現在準備していたが、当初8月~9月に出荷されるはずだったのに、未だ投入できていない。Cascade Lakeも含めて、Intelの新型は一つのシリコンウェハーから取れるCPU(ダイカット)の量を減らしてまでコアを増やして来た結果起きるべくして起きた現象だ。

要は、4コアに対して6コアなら単純計算で1.5倍の面積が必要になり、それが1つのプロセッサになる。半導体製造装置で一度に製造できるプロセッサの数は、半導体の面積によって変わるため、1.5倍の面積になれば、一度に製造できる量は、1割~3割低下する。2倍になれば、3割~5割も減る訳だ。Intelはモバイルで既に4コアから6コアへ、2コアから4コアへと大型化の道を進んでいる。

さらに、デスクトップでは最も売れるパフォーマンス帯で当初4コアから6コア、そして今年の秋に8コアと2倍の集積へと移行しようとして量産を始めていた。ここに1つめと2つ目の問題が重なり、製造がパンクしてしまったといえる。

そして、これを招いた最大の原因が、1つ目に軽く書いたが

<10nmプロセスノードの問題と各種誤算>

である。そもそもIntelは、Cannon Lakeを今年モバイルだけでも立ち上げるつもりだったのはほぼ間違いない。しかも、今年の春まではそれを目指していた形跡がある。
そして、今も出来るならそれをやりたいと思っているだろう。しかし、現在CannonLakeはCore i3の一部しかも、一部地域限定で投入されたものの、数量はごく僅かしかなく、第1四半期から第2四半期の間に投入された後、数量は増えていない。むしろ、減っている可能性もある。
それも、iGPUレスで少量という状況だ。これは、Broadwellの立ち上げ時より歩留まりが悪いことを意味してる。あれでも、Broadwell(第5世代Core)はY/U世代ではある程度の数が投入されていた上に後ろに行くほど数が増えていたが、Cannon Lakeは単体で第8世代を名乗ることも出来ず、後の弾が続かないのだ。

即ち、10nmがIntelの想定通りには進んでいないのだ。だから、Intelはプランを14nm継続でさらにコア数を増やす流れへと変更した。たぶん、この段階でIntelはこうなる可能性を危惧していただろう。しかし、SpectreとMeltdownというセキュリティ問題や、AMDのプロセッサが魅力的になっていることもあり、もう少しシェアが落ちると予想していたのかもしれない。

しかし、実際にはそうはいかなかった。AMDの主力ラインはIntelとは真逆に販売するラインナップを限定し売れ筋で且つ安く売っても儲かるラインを中心に。端的に言えば、種類を絞ることによる薄利多売である。しかも、Intelが勝手にラインナップを広げていても、AMDには特に痛みもないため、わざわざその土俵に載る理由もない。数量が減り始め市場が安定してから、ラインナップを増やせばよい。ある意味、今インテルが崩れるならこれから、AMDは攻撃に転じるかもしれない。


その結果、今回Cannon Lakeの代わりになるはずの14nmの量産中に他の予備在庫が不足する状況となった。まあ、すぐにゼロになることはないが、暫くは高止まりする可能性が高いだろう。特に、今8コアのCoffeelakeを大量投入すれば、全体の価格が暴騰する可能性が高い。

たぶん、出荷するにしても暫くは数量を限定する流れになるだろう。


<狂う計画>

これは予想以上にIntelの計画が狂っていることを示している。まあ、下手に新製品やラインナップを広げるような真似をしないなら、値上がりは製造ラインの増強と、一部製品の絞り込み生産で今年中から遅くても来年早々には落ち着くと思う。しかし、今回14nmラインに再投資を行って増強したのは、短期的には利益が出ているという見方も出来るが、中長期の計画からみれば、22nmが空き、10nmが動かせずお荷物、14nmしか使えないという状況を示しており、見通しは悪くなる。

元々Intelは2~3つ世代でプロセスノードを稼働させることで、効率的な製造をしてきたためそれが既に狂っている状況ではこれからを安定的に割り振っていくのは難しい。今の流れは、10nmの投資は既にペイすることを考えずに、7nmのTiger Lakeを立ち上げるしかない。場合によっては、Ice Lakeの目処によっては7nmにスキップする流れもあり得る。

それぐらい考えないと、長期視点での投資回収は狂い続ける恐れもある。インテルがファウンドリーを分離するとは思わないが、外部に製造委託をするという今の現状を考えると、これ以上製造が遅れるようなら、ファウンドリーを手放すか縮小して外部委託を増やす可能性もゼロでは無いのかもしれない。


まあ、プロセッサ市場の現実を知らない人は、品薄を日本だけの話(震災や台風の影響)だとか、データセンターが好調だからと思っているだろうが……。これは、長い目で見ると半導体市場はもちろん、Intelの今後の経営方針にも大きな影響を与え始めているはずなのだ。








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