Qualcomm Snapdragon 820の公式仕様
既にご存じの人も多いだろうが、先日、Snapdragon 820の公式仕様が公開された。既にベンチマーク情報は出回りつつあるが、サンプルの段階で、いくつか発熱と性能のバランスのチューニングが行われており、Snapdragon820A~Cリビジョンぐらいまでが開発段階にあるようだ。これは、Android上でのファームバージョンが1.0~1.xまでアップしていく過程で付けられた俗称(バージョンいくつというのは面倒なので)であり、公式にはSnapdragon 820は1つしかないが、それらの準備もほぼ完了し既に量産に入りつつある。そして、ベンチマークでは8コアで動作するSnapdragon810より良好で発熱も少ないと評価されている。
これが、事実ならかなりの性能向上が期待出来るだろう。
しかし、4コアの方が8コアより高速なのか一応それについても記載しておこうと思う。
Snapdragon 810では、2つの異なるプロセッサをGlobal Task Scheduling(通称:Big.LITTLE)という方法で利用している。私はBig.LITTLEと書くのが面倒なのでGTSと書くことが多いが、これは日本語で言えば全体に仕事を振り分ける(スケジュールする)という作業を示す。簡単に言えばベテランで責任者のAさん(スケジューラー)が、派遣のベテランB(A57)さんと派遣の新人C(A53)さんに仕事量に合わせて仕事を振り分けるということだ。Bさんはとても出来る人だが、とにかく単価が高い。それに対してCさんは単価は安いが少し慣れないので遅いし、条件が特殊な作業は時間が掛かる。だから、Aさんはそれに合わせて、仕事を先により分けてあげる。それが、Snapdragon 810の8コアである。
GTSでは、うまく機能すると必要ない時には消費電力を抑えて、そこそこの性能を発揮し、パフォーマンスが必要な時には劇的に性能が向上する。単にクロック周波数の上下だけで制御するより、広い性能と消費電力のマージンが取れるのが特徴である。しかし逆に言えばスケジューリングがうまくいかなければ、複雑な命令を誤って新人Cさんに任せてしまう恐れもある。Cさんが稼働するのは、電力を節約したいときと、繁忙期でBさんだけでは仕事が追い付かないときである。この後者でCさんが酷い仕事を任せられると・・・遅くなってしまう。即ち、コア数が増えても同じコアが複数になるのと違い、下手をすれば思ったほど性能が伸びなくなり、むしろそれ以上に消費電力と発熱だけが増す可能性もある。(Snapdragon810の発熱原因がそれだったかは分からない)
もともとQualcommはSnapdragon810の後にオリジナルのコアを開発していることは示していたため、Snapdragon810の失敗を受けて820で4コアにしたわけではないが、もともとSnapdragon 800シリーズは、Snapdragon S4時代から1コア単位で複雑なクロック制御と電力制御が出来ることで知られていた。そのため、Snapdragon820では4コア(GTSは採用していないと思う)で単一のコアをA57より高性能な演算性能にすることで810を上回る性能を発揮できるようになったと思われる。このKryoと呼ばれるプロセッサはQualcommにとって、正式なKrait 450(ARMv7-Ac※)の後継プロセッサでもある。そして、Qualcomm最初のARMv8-Ac※プロセッサコアである。日本では、SnapdragonをSoCではなくCPUとして書くことが多いため810が後継に見えるが、810はプロセッサコアがARMが設計したCortex-Aシリーズなのである。
尚、以前も書いたがGPU部もクロックが上がっており命令セットも強化された。標準クロックは650MHzのようだが・・・。DSP部もパフォーマンスが向上している。まあ、発熱問題がなければ、Snapdragon810でも十分な領域なのだが・・・
最後に登場時期だが、一般へのお目見えは、Snapdragon810と同じようなサイクルで登場するのではないかと思う。
※Acのcはcustom、customizeの略。
開発メーカー | Qualcomm | Qualcomm(参考) |
SoC名称 | Snapdragon 820 | Snapdragon 810 |
型番 | MSM8996 | MSM8994 |
CPU名称(基本設計) | Qualcomm ”Kryo” | CortexA53+ CortexA57 (GTS) |
CPU動作周波数 | 2.2GHz | 2GHz |
最大周波数 | 2.2GHz | 1.5GHz(A53) 2GHz(A57) |
命令セット | ARM v8-Ac | ARM v8-A |
演算幅 | 64bit | 64bit |
製造プロセス | 14nm(FinFET) | 20nm(HPm) |
コア数 | Quad、4コア | 4(A53)+4(A57) Octa、8コア |
GPU部 | Internal GPU | → |
開発名(ブランド) | Adreno530 | Adreno430 |
陰影処理エンジン | 第5世代 | 第4世代 |
動作周波数 (最大) | 700MHz以上 | 650MHz |
API_Open GL ES | 3.1+APE (3.2 Ready) | 3.1 |
API_OpenVG | 1.1 | 1.1 |
API_OpenCL | 2.0 | 1.2 |
API_Direct Graphics 3D | 12.0 | 11.2 |
API_Direct3D FL | 12.1 | 11.1 |
DSP部 | Internal DSP | Internal DSP |
DSP開発名(ブランド) | Hexagon680 | HexagonV56 |
動作クロック最大 | 1GHzか? | 800MHz |
Dolby Atoms | ○ | ○ |
H265/HEVC Encoding | ○ (Rec.2020) | ○ |
H.265 Enc Max Res | 2160P 60fps | 2160P 30fps |
H265/HEVC Decording | ○ | ○ |
RF | RF360 | RF360 |
LTE通信モード | Cat.12/Cat.13、LTE-U | Cat9 |
L1 Down-Link Maximum | 603Mbps | 450Mbps |
L1 Up-Link Maximum | 153Mbps | 51Mbps |
Wireless LAN (Wi-Fi) | MU-MIMO 2x2 802.11AC | MU-MIMO 802.11AC |
WiGig(11ad) (60GHz Wi-Fi) | ○ | △(デモはしたが登場せず) |
Bluetooth | 4.1 | 4.1 |
カメラ エンジン | Spectra ISP (25MP) 14bit Dual ISP 3Cam Support※2 | 55MP 14bit Dual ISP |
動画サイズ fps、Encoding | 4K、60P (H265/HEVC,VP9) | 4K、30P (H265/HEVC) |
USBホスト | USB2.0/3.0 | USB2.0/3.0 |
測位センサー | IZat Gen8C | IZat Gen8C |
GPS(米国) | ○ | ○ |
GLONASS (ロシア) | ○ | ○ |
Baidou (中国) | ○ | ○ |
Galileo (欧州) | ○ | ○ |
QZSS (日本) | × | × |
MCH部 | Internal MCH | Internal MCH |
対応メモリ | LPDDR4 1866MHz Dual Channel | LPDDR4 1600MHz Dual Channel |
Memory Bus Width | 64bit(32bit×2) | 64bit(32Bit×2) |
帯域幅 | 29.8GB/s | 25.6GB/s |
その他 | ー | ー |
Internal Flash Memory Controller Support | UFS2.0、eMMC5.1 | eMMC5.0 HS400 |
SD Card Adapter | SDXC UHS-I | SDXC UHS-I |
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